エプロンひとつで覚醒した婚姻第1話
第1話は約2,153文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
結婚7周年の家族会食で、ずっと独身だった親友・藤井夏美(ふじい なつみ)が、いつの間にかSNSのアイコンがペアアイコンに変わっていることに気づいた。
「隠れて彼氏できたの?いつ紹介してくれるの?私がチェックしてあげるわ」
からかうように言った私、奥山莉奈(おくやま りな)に対し、夏美はただ笑って首を振り、まだ早いとはぐらかした。
その時、キッチンから夫の奥山拓海(おくやま たくみ)の声がした。
「おい、エプロンの紐を結んでくれないか?」
私が立ち上がる動きより先に、夏美が駆け寄り、背中から腕を回してエプロンを結んであげていた。
立ち尽くす私を見て、彼女は慌てて言い訳した。
「実家で母によく言いつけられてるから、体が勝手に動いちゃったの。気にしないで」
私は騒ぐこともなく、顔色一つ変えずに、最後まで客をもてなした。
客が帰り、テーブルを片付けている拓海に、私は静かに言った。「離婚しよう」
拓海はバンと食器を投げ捨て、私を睨みつけた。
「彼女がエプロンを結んでくれたくらいで、そこまで言うのか?」
* * *
結婚7周年の家族会食で、ずっと独身だった親友・藤井夏美(ふじい なつみ)が、いつの間にかSNSのアイコンがペアアイコンに変わっていることに気づいた。
「隠れて彼氏できたの?いつ紹介してくれるの?私がチェックしてあげるわ」
からかうように言った私、奥山莉奈(おくやま りな)に対し、夏美はただ笑って首を振り、まだ早いとはぐらかした。
その時、キッチンから夫の奥山拓海(おくやま たくみ)の声がした。
「おい、エプロンの紐を結んでくれないか?」
私が立ち上がる動きより先に、夏美が駆け寄り、背中から腕を回してエプロンを結んであげていた。
立ち尽くす私を見て、彼女は慌てて言い訳した。
「実家で母によく言いつけられてるから、体が勝手に動いちゃったの。気にしないで」
私は騒ぐこともなく、顔色一つ変えずに、最後まで客をもてなした。
客が帰り、テーブルを片付けている拓海に、私は静かに言った。
「離婚しよう」
拓海はバンと食器を投げ捨て、私を睨みつけた。
「彼女がエプロンを結んでくれたくらいで、そこまで言うのか?
莉奈、7年間、家事を一つもさせずに、お前を一番大切にしてきたのに。親友のちょっとした振る舞いで離婚なんて言い出すなんて、後ろめたくないのか!」
拓海は目を赤くして私に問い詰めた。まるで私が酷いことをしたかのように。
私は言葉を返さず、テーブルに残った食べかけの焼き魚に視線を落とした。
「7年間、毎回ご飯の時、私があなたの作ったこの料理が好きだからって、一番取りやすい場所に置いてくれていたよね。
でも今回は、同じくこの料理が好きだった夏美の目の前に置いていたわ」
拓海は一瞬言葉を詰まらせ、「そんなことくらいで騒ぐなよ。料理を出す時、誰も手伝ってくれなくて頭が回ってなかったんだ。いちいち考えられるわけないだろ」と言い捨てた。
私は寂しく首を振り、掠れた声で言った。
「それだけじゃない。みんなが席に着くとき、あなたは真っ先に夏美に椅子を引いてあげていた。
彼女のグラスが空になると新しい飲み物を開けて、味も私じゃなくて彼女の好みのものにしていた。
拓海、人間っていうのは習慣の生き物なの。本当に好きな相手には、無意識に一番いいものをあげたくなるのよ。
余裕がない時ほど、無意識に本性が出るの。あなたが別の女を優先して優しくした。それが私が別れを決めた理由よ」
拓海の表情が曇り、バカを見るような目で私を見つめた。
「莉奈、お前どうかしてるぞ。些細な動作から、そんな大げさなことを読み取るなんて。刑事でも目指したらどうだ?
それに別の女?夏美だぞ!小さい頃からのお前の親友だろう!
お前のために気を遣っているだけなのに、どうして不倫扱いするんだ。理不尽だろ!」
彼は部屋からアルバムを探し出し、私に投げつけた。
ページをめくると、私と夏美が子供時代から大人になるまでの仲睦まじい写真が並んでいる。どれも姉妹のように笑い合っていた。
特に目立つのは、私と拓海が結婚した時に彼女が撮ったブライズメイド姿の写真だ。
式場で、私たちが指輪を交わしているのを見て、夏美は目に涙を浮かべていた。
次の写真では、私と夏美が抱き合い、彼女はブーケを持って満面の笑みを浮かべていた。
それらの写真を見つめ、私は後々から気がついて、皮肉な笑みを浮かべた。
「指輪の交換の時、夏美のつま先が向いていたのは私じゃなくてあなたよ。私たちが結ばれることに感動したんじゃなくて、あなたに向けて流した涙でしょ。
私とハグしている時、彼女はカメラの外の人に笑いかけていた。角度から見ると、それは間違いなくあなただったわ。
7年前からあなたに思いを寄せていたのね。だからずっと独身を貫いていたはずだわ。
で、あなたの方はどうなの?いつからなの?」
拓海が一歩後ずさりし、私への失望と怒りで表情を歪めた。
「莉奈、一時の思い込みで考えすぎだと思っていたが、そこまで精神がイカれてるとはな。過去のことまでこじつけて汚すのか!
甘やかしすぎて、わがままで理不尽な女にしてしまったな!
明日までに反省しろ。明日はおじいちゃんの傘寿の祝いだ。これ以上、騒ぎ立てて恥をかかせるな!」
彼はエプロンを投げ捨て、ドアを叩きつけるように閉めて出て行った。