幼馴染を選んだ彼に、さよならを告げる第3話
第3話は約1,884文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
亮太と結婚してから、私はいつも彼のことを一番に考えて、食事だって彼の好みに合わせてきた。
亮太は海産物が大好きだけど、私は生まれつき海産物アレルギーがある。
彼のために、軽いアレルギー症状が出るのも、何度も我慢してきた。
でも私の我慢は、亮太にとっては当たり前のことになってしまった。
この前ひどいアレルギーが出たときも、亮太はお構いなしで、無理やり海鮮バイキングに連れて行こうとしたんだから。
あの時、私が重度のアレルギーで呼吸困難になって救急搬送されたのに、亮太は私を責めるように、「せっかくの食事が台無しだ、本当に面倒くさいやつだな」と文句を言った。そして、「結衣はそんなことない。平気で食べられるのに」と続けるのだ。
あの頃の私は、本当にどうかしていた。結衣を亮太の心の中から追い出そうなんて、本気で考えていたんだから。
でも、本当に私のことを愛してくれていたら、体調が悪いときに、わざわざ他の人と比べるなんてこと、するはずないわよね?
「霞さんはアレルギーだったね。ごめん、私のせいだわ。いつもこういうものばかり食べたいから、亮太も私に合わせてくれてる」
結衣の棘のある言葉を聞いても、私はただ微笑んで、こう返した。「ええ、彼はあなたのことをすごく大事にしてるものね」
私が言い終わると同時に、亮太は不機嫌そうに顔を曇らせ、箸をテーブルに強く置いた。
怒ってるの?私は本当のことを言っただけなのに。彼が怒る理由なんてどこにもないはずよ。
ちょうどその時、私のスープが運ばれてきた。私は黙ってそれを飲み始めたけど、亮太は席を立って、無理やり私の隣に座ってきた。
向かいの席に一人取り残された結衣は、歯を食いしばって私をキッと睨みつけた。
二人はそれ以上話すこともなく、食事はとても静かに進んだ。
スープを飲み終えて席を立とうとすると、亮太が私の腕を掴んだ。「話があるって言っただろ」
「亮太、うちの両親から連絡が来てね、たまには顔見せに来いってうるさいの。もし時間があったら、実家に寄って行かない?」
結衣が話に割り込み、ごく自然な様子で亮太の腕に絡もうとした。
しかし亮太は、珍しく自分から結衣との距離を取り、結衣の手は宙に浮いたままになった。そして、結衣の言葉には何も答えなかった。
私は結衣の言葉は無視して、亮太に尋ねた。「昨日、私が送ったニュース、見た?」
彼はきょとんとした顔で、慌ててスマホを取り出して、私とのラインの履歴を遡り始めた。
亮太の顔がみるみる青ざめていくのを見ながら、私はゆっくりと口を開いた。「亮太、昨日、飛行機事故があったの。私は、あなたが心配してくれるんじゃないかって、そう思ってた。でもあなたは?もし私が本当に死んでいたら、あなたは何日後にそのことを知るのかしら?」
途方に暮れる亮太を残して、私はタクシーを拾って実家に戻った。
色々と考えた末、私は離婚を決めたこと、そしてこれまでの悩みを両親に全て打ち明けた。
正直に話したことで、両親もやっと理解してくれた。
小さい頃からずっと、両親はただ私が幸せになることだけを望んでくれていたのだ。
それから数日間、私は実家で過ごした。
今までは亮太のことばかり考えていて、両親と過ごす時間はほとんどなかったから。
人は本当に、死に直面した時に初めて、大切なことに気づくんだ。
私だけを特別扱いしてくれないなら、そんなのもう、いらない。
この数日、亮太は仕事が終わると手土産を手にうちへ押しかけてくる。両親の体調を気遣ったり、母に私の好物を聞いたりした……そんなことは、今までの彼なら、「男のすることじゃない」と見向きもしなかったのに。
私にもプレゼントを買ってきた。
ブレスレットと、女性ものの香水。
私はそれをちらりと見ただけで、手もつけなかった。
「気に入らないか?」
亮太が、おずおずと私に尋ねる。彼がそんな風に話しかけてくるのは初めてだった。
私は怪訝な顔で亮太を見返した。「私がこんなデザインのブレスレットをしてるの、見たことある?香水も、甘すぎて私の好みじゃない」
亮太の顔色が変わったのを見て、私は続けた。
「全部、結衣さんに勧められて買ったものでしょ?悪いけど、私、人と被るものは使わない主義なの」
今までの私なら、彼からプレゼントをもらえたというだけで、大喜びしていたはずだ。
亮太は唇を噛みしめると、勢いよく立ち上がり、プレゼントを床に叩きつけた。
「いちいち嫌味を言わないと気が済まないのか?結衣との山登りは前から決まってた約束だ。それに、飛行機事故なんて俺にはどうしようもできないだろ。だいたい、お前は今こうしてピンピンしてるじゃないか!」