義姉を優先し、我が子を見殺した夫への復讐第3話
第3話は約1,780文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
美羽は憎々しげに立ち上がり、去り際に冷凍庫の温度設定をさらに10℃下げた。
凍てつくような極寒の中で、私はガタガタと全身の震えを止めることができなかった。
薄れゆく意識の中で、赤ちゃんの泣き声が聞こえたような気がした。
暗闇の中で、小さな子供が何度も何度も「ママ、助けて」と私に泣きすがっているようだった。
私は耐えきれずに泣き崩れた。
今日、あの子に会えるはずだったのに。
この腕に抱きしめられるはずだったのに。
あとほんの一歩だったのに。
どうして神様は、私の子供にこんなにも残酷な運命を強いるのか!
私は泣き叫んだ。
無力感が、私の心臓を冷たく貫いていた。
助かる見込みは、もうほとんどない。
私は激痛に耐えながらそっとお腹を撫で、赤ちゃんに話しかけた。
「もし願いが叶うなら、来世で、パパがママを愛しているような、温かい家庭に生まれてきてね。そうすれば、きっと幸せになれるから……」
私の呼吸は次第に弱くなり、全身の血が凍りついていくようだった。
その時、突然誰かが冷凍庫の扉を開け、中の明かりをつけた。
血の海の中に横たわる私の姿を見て、その男は飛び上がるほど驚いた。
私は残されたすべての力を振り絞って前に這い進み、声を絞り出した。
「た、助けてください……」
男は恐怖のあまり、声を震わせていた。
「あんた、誰だ?何かマズいことでもしたのか?
朝倉社長にこんな所に放り込まれて罰を受けてるなんて」
彼は私を警戒するように見ていた。
「私……朝倉陽介の、妻です」
私は血まみれの手を震わせながら差し出した。
指にはめられた結婚指輪も、血で本来の輝きを失っていた。
「これ……陽介が私にくれた、世界に一つだけの指輪……」
その指輪を見て私が社長夫人だと悟った男は、私を抱き起こそうとしたが、ふと手を止め、考え込んだ後にスマホを取り出して陽介に電話をかけた。
「社長、荷物を取りに来たら、奥様が倒れていました。全身血まみれです。今すぐ病院へ運んだ方がいいでしょうか?」
陽介はひどく怪訝そうな声を出した。
「血だと?あの女、美羽の蛇にそこまで酷い怪我を負わせたのか!
床が血だらけになるほどなんて、美羽が悲しむのも無理はない」
陽介の決意は、さらに固くなったようだった。
「病院へ連れて行く必要はない。それはあいつの血じゃない。
あいつはピンピンしてるさ。後で俺が自ら迎えに行く」
作業員の男がさらに何か説明しようとしたが、陽介は電話を切ってしまった。
男は困ったように私の横を通り過ぎた。だが、荷物を運び終えた後、なんと再び私のそばに戻ってきたのだ。
彼はかなり葛藤したようだった。
「いくらなんでも、血まみれの妊婦を見殺しになんてできねえよ。
うちの嫁とお腹の中の子供のためにも、ここは徳を積んでおくとするか……」
彼は私を冷凍庫から引きずり出し、救急車を呼んでくれた。
助かったと分かった瞬間、私はほっと胸をなで下ろした。
だが、運ばれた病院には、私を無事に出産させるための医療設備は一つも残されていなかった。
陽介が心音の出産時に万が一のことが起きるのを恐れ、市中の設備をすべて貸し切ってしまっていたのだ。
私の状態は極めて危険だった。医師は私の命を優先し、別の病院へ私を転院させるしかなかった。
医師は私のスマホの連絡帳から「夫」と登録されている番号を見つけ、電話をかけた。
「もしもし、星野瑠夏さんのご家族ですか?
奥様が危険な状態です。羊水塞栓症を引き起こしている恐れがあります!」
陽介は明らかに苛立った様子で、突然声を荒らげて怒鳴った。
「お前、大したタマだな。自力で逃げ出した挙句、今度はサクラまで雇って俺を騙そうってのか!
言っておくがな、お前がどんなくだらない小細工を弄しようと、俺は絶対に行かないからな!
お前の体のことくらい俺が一番よく分かってる。何かが起こるはずがないんだ!
産まれる時が来るまで、大人しくじっとしていろ!
他人の同情を引くような真似をして、周りに迷惑をかけるな!」
医師は深く同情するような目で私を見つめ、隣にいる同僚に振り返って言った。
「まずは転院させましょう。設備が整ってから対応するしかありません」
だが、まさか私が運び込まれたのが、心音のいるあの病院だったとは思いもしなかった。
担当の医師たちが必死に説得し頭を下げても、陽介は頑なに設備を一つも譲ろうとはしなかった。
壁越しに、陽介の冷酷な声が聞こえてきた。