さようなら、娘より愛人を選んだ元夫第3話
第3話は約2,006文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
ふらつく足取りのまま母の墓へ駆けつけると、理人がちょうど作業員たちに指示を出し、墓を掘り返させているところだった。
「やめて!!」
私は夢中で駆け寄り、二人の作業員を力いっぱい突き飛ばすと、鍬を奪い取り、母の墓の前に立ちはだかった。
理人は真穂親子を自分の背後へかばい、鼻で笑った。
「早苗、お前は金さえ払えば何でもレンタルできるんじゃなかったのか?
お前の母親の墓のレンタル代は、もう振り込んである。今さら何を騒いでるんだ」
怒りで奥歯がかちかちと鳴り、立っていることさえやっとだった。
「理人……あなたには、人の心がないの!?」
理人は意にも介さない様子で肩をすくめる。
「俺はお前のルールどおりにやってるだけだ。それのどこがいけないんだ?
それともお前の中では、どんな感情よりも尊いものがある一方で、俺たち夫婦の情だけは泥みたいに安くて、金で売り買いできる程度のものだったってことか」
私は拳を握り締め、爪が手のひらに深く食い込んだ。
それでも、憎しみが痛みを上回り、何も感じなかった。
どうしても理解できなかった。
母の病室で、残りの人生をかけて絶対に私を裏切らないと誓ってくれたあの人が、どうしてこんな人間になってしまったのか。
真穂は犬の遺影を胸に抱き、涙ぐみながら口を開いた。
「もういいの、理人さん。コロは私と陽太にとって家族同然だったけど、動物はやっぱり動物ですもの。早苗さんのお母様のお墓の場所まで奪ってしまうのは、やっぱり申し訳ないわ」
その涙を見た理人は、冷え切った声で言った。
「早苗、どけ」
私は歯を食いしばって答えた。
「絶対にどかない」
理人は私の目の前まで歩み寄り、耳元で低く囁いた。
「碧ちゃんは来月手術なんだろう。この時期くらい、少しはおとなしく言うことを聞いたらどうだ」
全身から血の気が引き、自分の耳を疑った。
「碧ちゃんはあなたの娘じゃないの?自分の実の娘の命を盾にして、私を脅すつもりなの?」
理人はそっと手を伸ばし、乱れた髪を耳の後ろへ優しくかき上げた。
けれど、その口から紡がれた言葉は、その仕草とは正反対に、凍りつくほど冷たかった。
「ああ。でも陽太も俺の実の息子なんだ。お前と結婚する前の夜、真穂が昔話をしに来てな。二人とも少し飲みすぎて、そのまま一線を越えてしまった……
お前と碧ちゃんには金も立場もあるんだから、少しは物分かりよくしてくれ」
冷や汗が全身を伝い、耳の奥では激しい耳鳴りが鳴り響いた。
娘が突然心筋梗塞で倒れたあの日の光景が、何度も何度も脳裏によみがえる。
私はゆっくりと手にしていた鍬を下ろした。
両足は鉛を流し込まれたように重く、一歩踏み出すのもやっとの思いで道を譲った。
それを見た陽太は、意地の悪い笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。
「やったー!ババアがコロに場所を譲ってくれたぞ!」
彼は母の墓前に供えられていた花を乱暴に払い落とし、骨壺をつかんで地面に叩きつけようとした。
「やめて!」
頭の中が真っ白になり、私は夢中で飛びかかった。
骨壺だけは、絶対に壊させたくなかった。
母の最後の居場所まで奪われるなんて、耐えられなかった。
骨壺を守ろうとした瞬間、私は勢い余って墓石に頭を強く打ちつけた。
視界がぐるぐると回り、目の前が真っ赤に染まる。
それでも、母の骨壺は私の腕の中で砕け、遺灰が地面へこぼれ落ちた。
それを見た陽太はますます面白がり、足を高く振り上げると、こぼれ落ちた遺灰を何度も何度も力いっぱい踏みつけ始めた。
真穂はわざとらしく止めに入るふりをして近づいてくる。
「陽太!どうしてそんなに言うことを聞かないの?そんな汚いものを踏んで服も靴も汚したら、また理人さんに洗ってもらわなきゃいけないじゃない」
そう言いながら陽太を引き離すふりをして、その勢いのまま手に持っていたタピオカミルクティーを遺灰の上へ丸ごとぶちまけた。
「あっ」
無残に汚された遺灰を見下ろし、真穂は心底悔やんでいるような声を漏らした。
「早苗さん、お母様の遺灰を汚すつもりなんて、本当になかったんです。どうしましょう」
そう言って理人の後ろへ身を隠した彼女の口元には、人の不幸を面白がる薄笑いが浮かんでいた。
「早苗」
理人は慌てて私を抱き起こし、震える手で額から流れる血を拭おうとした。
「痛むか?めまいはしないか?」
目の前の光景を見た瞬間、私の理性は音を立てて崩れ落ちた。
私は理人を力いっぱい突き飛ばし、手にしていたバッグを振り上げ、あの下劣な親子の頭めがけて叩きつけようとした。
「殺してやる」
だが、私が近づくより早く、理人の蹴りが容赦なく私の体を吹き飛ばした。
不意を突かれて地面に叩きつけられ、全身が砕け散るような激痛が走る。
理人は険しい表情で真穂の前に立ちはだかり、怒りをあらわにして叫んだ。
「早苗、お前は本当にどうかしてる!白昼堂々、女と子どもに手を上げるなんて!
今すぐ警察を呼んで、留置所で二、三日頭を冷やしてきたほうがよさそうだな!」