センターを譲る少女たち第3話
第3話は約1,477文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
大粒の涙が頬を伝って落ちていく。田中美咲は何度か口を開きかけたが、言葉にならない。
「話してくれないなら、センターを降りるわ」
「それだけはダメ!」
「じゃあ、なぜみんな私にセンターを押し付けるの?」
田中美咲は唇を噛みしめ、血が滲みそうなほどだった。しばらくして、やっと重い口を開いた。
「昨夜、葵は朝まで寝てたって言ったけど......私が見たものを知りたい?」
田中美咲は続けた。うとうとしかけた時、私が寮を出て行くのが見えたという。
「後ろから何度も名前を呼んで、どこに行くのか聞いたのに、まるで聞こえていないみたいに、振り向きもしなかった。
仕方なく付いていったら、レッスン室でセンターのキリングパートを踊り始めたの。
私、すごく腹が立って......何度も詰め寄ったの。センターがやりたいなら、はっきり言えばいいのに、なんで隠れて練習するのかって。
そしたら、振り向いて......私は......私は......」
田中美咲の声が震え始めた。私は励ますように目を向けながら、無意識に彼女の手首を握りしめていた。
深いため息の後、彼女は続けた。
「振り向いた顔は......目も鼻も口も血だらけで......『私の踊り、どう?センターになれる?』って聞いてきたの」
「本当に私だって確信があるの?誰かのいたずらじゃない?」
田中美咲は首を振って言った。
「電気は消えてたけど、外灯の明かりではっきり見えた。間違いなく葵の顔だった。
怖くて必死で逃げ帰ったら......寮で葵が眠ってたままだ」
私たちは互いの目を見つめ合い、同じ恐怖を感じ取った。美咲が見たのは私そっくりの「幽霊」。
なら、佐藤綾里は何を見たのだろう。
佐藤綾里を驚かせないよう、田中美咲が先に話をすることにした。
待ちくたびれそうになった頃、田中美咲が戻ってきた。
田中美咲の顔色が悪くなり、こう言った。
「やっぱり......綾里から直接聞いた方がいいと思う」
佐藤綾里は相変わらず私の目を避け、必死に感情を抑えているのが分かった。
「私にも分からないの!
センターになってから、練習中にずっと誰かに見られている気がして......ある日、葵の後ろ頭に人の顔が浮かんでるの見たの。葵とまったく同じ顔が!」
額に冷や汗を浮かべながら、綾里は顔を両手で覆った。
「最初は距離があって気付かなかった。
葵が話しかけてきたのかと思って、バカみたいに近づいて......
でも振り向いた時に分かったの。
その顔が......後頭部についてたって。
怖くて寮まで逃げ帰って、落ち着いてから急に、あの時の口の動きが理解できたの。
『センターを、私にくれる?』って」
綾里は震える手で美咲の肩を掴みながら言った
「あの時からずっと私を見ていたのは、きっとあの顔だったの」
その話を聞いて、背筋が凍る思いだった。
思わず後頭部に手を伸ばすと、髪の柔らかな感触に少し安心した。
他のメンバーに迷惑をかけないよう、私はセンターを引き受けることにした。
落ち着いてから何度も考えた。幽霊なんて、本当にいるのだろうか。
それまで私は科学的な考え方を持っていて、幽霊の存在なんて信じていなかった。
だから、スタッフに気付かれないように、こっそりレッスン室の防犯カメラの映像を確認することにした。
深夜の時間帯の映像を少しずつ進めていったが、幽霊らしきものは映っていなかった。
もう諦めかけた時、モニターいっぱいに映し出されたのは、私と瓜二つの顔だった。
画面全体を覆い尽くすその顔は、目から血の涙を流しながら、不気味な笑みを浮かべていた。
頭の中が真っ白になり、思わず悲鳴を上げてしまった。