不倫の末路、地獄に堕ちた元夫第3話
第3話は約2,352文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
私は家に駆け戻り、自分と奏良の荷物をまとめ始めた。
そして、プロのボディガードを雇い入れた。
万全の準備を整え、あとは夜が明けたら奏良を救出しに行くだけだ。
だが、深夜零時。帰ってこないと思っていた琉馬が玄関のドアを開けた。
ひどく酒臭い息を吐きながら、彼は私を見つけるなり乱暴に顎を掴み上げ、忌々しそうに吐き捨てた。
「愛唯、なんだその不機嫌そうな面は。
彩葉と陽仁はずっと外に囲っておく。お前の妻としての地位を脅かすような真似はさせない。どうして少しくらい譲歩できないのか」
譲歩?私は思わず冷笑を漏らした。
五年前、私は譲った。けれどその結果がこれだ。
彼は別の女との間に子供まで作っていた。
彩葉のSNSには、家族三人で誕生日を祝う睦まじい後ろ姿が投稿されていた。
その一方で、私の奏良はあの冷たく残酷な施設に閉じ込められていた。
琉馬は私の頬を撫で回した。その目には、いまだに私への執着と未練が濁って浮かんでいる。
「愛唯、俺たちももう一人、女の子を作ろう。息子と娘、両方揃えば、お前だって俺から離れようとはしなくなるはずだ」
言い終わるが早いか、彼は強引に私を押し倒した。熱を帯びた手のひらが、私の太ももを這い上がってきた瞬間――
私は渾身の力で、彼の頬をひっぱたいた。
乾いた音が部屋に響き渡り、琉馬は呆然と固まった。信じられないというように、目を見開いて私を凝視している。
「……正気か!」
私は彼を力いっぱい突き飛ばし、あらかじめ用意していた離婚協議書を彼の顔に叩きつけた。
「離婚よ」
どうせ最初から、彼の両親は私が彼に釣り合わないと見下していたのだ。その上、彼自身が決定的な裏切りを働いた。
ならばもう、これ以上この関係を続ける理由などどこにもない。
琉馬の顔色は異常なほど険しくなった。アルコールが脳を麻痺させていたからか、それとも彼自身、とっくに私へ愛想を尽かしていたからか。
これまでの彼なら、ここで適当に宥めて引き下がったはずだ。だが、今回は違った。
「本気で離婚する気か?」
「ええ、本気よ」
琉馬は怒りで両目を真っ赤に充血させ、ペンを取り出して迷いなくサインした。
「愛唯、お前が泣いてすがりついてくるのを待っててやるよ」
私は一瞥もくれず、協議書と荷物を持ち、そのままドアを蹴破る勢いで家を出た。
翌朝早く、私はボディガードたちに命じて、あの施設に直接押し入った。
大金を払って雇ったプロだけあって手際が良く、十分も経たないうちに奏良を見つけ出してくれた。
たった一日。それなのに、一体どんな残酷な折檻を受けたというのか。奏良は魂が抜けたように虚ろな表情で、「ママ」と呼ぶことすらできなくなっていた。
私は胸がずたずたに引き裂かれる思いで、すぐに彼を病院へ連れて行こうと抱き抱えた。
しかし、車に乗り込もうとしたその瞬間。猛スピードで突っ込んできた高級車に、私たちの車の行く手を塞がれた。
降りてきた琉馬と彩葉を見て、私は激怒して叫んだ。「どきなさい!奏良を病院に連れて行くのよ!あなたたち――」
しかし私の言葉が言い終わるより早く、彩葉が地面に膝を突き、その場に崩れ落ちた。彼女は顔中を涙でぐしゃぐしゃにして、なりふり構わず縋り付いてきた。
「愛唯さん、お願い……!私の子を返して!陽仁がいなくなったら、私、生きていけない……!お願い、返して……!」
叫びながら、彼女は何度も、鈍い音を立てて額を地面に打ち付け始めた。
私はその場で凍りつき、信じられない思いで吐き捨てた。「何をバカなことを……!陽仁の行方がわからなくなったからって、私に何の関係があるっていうのよ!」
「愛唯!」
琉馬が割れんばかりの怒声で咆哮した。
「ここに至ってもまだしらばっくれる気か!ボディーガードを雇って施設に不法侵入するような女だ、他になんだってやりかねないだろうが!」
私の心臓は抉られるような痛みで激しく脈打った。この男は、泥棒猫が産んだ子供一人のために、私を極悪人扱いして責め立てている。
そのすぐ目の前で、実の息子である奏良がどれほど異常な状態にあるか、一瞥すらしてくれない。
奏良はガタガタと小刻みに震え、その顔色は今にも事切れてしまいそうなほど蒼白だった。
これ以上ぐずぐずしてはいられない。私は奏良を抱き抱え、強引に車に乗り込もうとした。
だが次の瞬間、琉馬の瞳に冷酷な光が宿った。彼は私の腕の中から、奏良をひったくるようにして強引に奪い去った。
顔を怒りで青筋立たせ、彼は低く凄んだ。「愛唯、もう一度だけ聞く。陽仁をどこへやった。さっさと吐け」
彼に乱暴に羽交い絞めにされている奏良を見て、私の目から大粒の涙が溢れ出した。
私は半狂乱で叫んだ。「陽仁なんて拉致しないわ!……十年よ。十年間も一緒にいて、あなたの目に私は、子供を拉致するような浅ましい人間に映っていたの!」
私の叫びに、琉馬の顔に一瞬の躊躇いが浮かんだ。だが、すかさず彩葉が鼓膜を破るような凄絶な悲鳴を上げた。
「自分の息子の居場所を守るためなら、何だってやる気でしょ!どうせ陽仁は愛唯さんの子じゃないんだから!愛唯さん、お願い……恨みがあるなら私を殺して!あんな小さな子に、なんて残酷なことを……っ!」
彼女はむせび泣き、まるで私が本当に陽仁を手に掛けたかのような言いようだった。
だが、その瞳の奥に潜む不気味なほどの余裕は、我が子を失った母親のそれとは到底思えなかった。
琉馬はそんな彼女の芝居に微塵も気づいていなかった。顔を強張らせ、極度の苛立ちを押し殺しながら私に向かって言った。
「愛唯、陽仁に神谷家の相続権を与えるつもりなんて、最初からない。ただ無事に、平穏に育ってくれればそれでいいんだ。信じられないなら、今すぐその内容で遺言書を書いたっていい!」
ふざけないで。遺言書なんて、死ぬほどどうでもいいわよ。