五人の輪に、私の居場所はなかった第3話
第3話は約1,809文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
ゲストルームのドアの裏には柚葉のパジャマが掛けられ、洗面所には彼女のスキンケア用品が並んでいた。
冷蔵庫の中まで、柚葉の大好きなジュースでいっぱいになっている。
その一方で、私がいつも飲んでいたものは、もうずいぶん前から買い足されていなかった。
夕食を作ったのは拓海だった。食卓についた柚葉が胃の調子が悪いと言うと、拓海はあっさりした料理を彼女の前に移した。
健太は柚葉の皿から唐辛子を取り除き、航平は温かいお茶を差し出した。
「ゆっくり食べろよ。また胃が痛くなるぞ」
私は黙って食事を続け、食べ終わると、食器をまとめてキッチンへ運んだ。
誰かに頼まれたわけでも、催促されたわけでもない。ただ、柚葉がいると、洗い物は決まって私の役目になった。
柚葉は仕事で図面を描かなければならないし、ネイルもしたばかりだからと言う。
拓海は、柚葉は胃が弱いから、冷たい水に触ると体調を崩すかもしれないと言う。
そんな言葉を何度も聞かされているうちに、私自身もそれが当たり前だと思うようになっていた。
蛇口をひねると、リビングから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
最後のお皿を洗い終え、手を拭いてリビングへ戻ると、部屋の照明はすでに消されていた。
テレビの青白い光だけが辺りを照らしている。画面にはホラー映画が流れていて、ちょうど廃病院の廊下が映し出されていた。
柚葉が拓海の隣の空いた場所をぽんぽんと叩いた。
「菜月、早くおいでよ!席、空けておいたよ」
私はソファに近づき、テーブルの上にミルクティーが二杯置かれていることに気づいた。
私の分は、一杯買うともう一杯無料でもらえるキャンペーンのマンゴーミルクティーだった。
私はマンゴーアレルギーだ。そのことはみんな知っているはずだった。
柚葉の前に置かれているのは、彼女の大好きな栗のクリームがのったミルクティーだった。
拓海が私をちらりと見た。
「菜月、なんで飲まない?」
「私、アレルギーだから」
「じゃあ飲まなくていい。そのまま置いとけば?」
柚葉が慌てて口を開いた。
「ごめんね、知らなかった。よかったら私のと交換する?」
すると拓海は、柚葉のミルクティーを少し遠ざけた。
「柚葉は自分のを飲んでなよ。菜月は飲まないならそれでいいだろ」
そのとき、映画から突然悲鳴が響いた。驚いた柚葉が拓海の腕をつかむと、彼はすぐにその手を握り返した。
「もう見ないほうがいいよ。次はもっと怖いシーンだと思うから」
三人は柚葉を囲んで声をかけていた。ソファの端に座る私のことなど、誰も気に留めていなかった。
私はマンゴーミルクティーを見つめながら、ふと大学に入ったばかりの頃を思い出した。
あの頃は、まだ四人だった。拓海、健太、航平、そして私。
一緒に授業を受け、一緒にご飯を食べ、週末には車で郊外へ遊びに行ったりもした。
柚葉が私たちの学科に転入してきたとき、最初に仲良くなったのは私だった。
彼女はよく私の腕に絡みつきながら、こう言っていた。
「これからは五人だね!」
私はそれが嬉しくて、いつしか柚葉を一番の親友だと思うようになっていた。
けれどいつからだろう。五人で旅行に出かけると、五人乗りの車では決まって私が後部座席の真ん中に座るようになった。
柚葉は車酔いしやすいからと、助手席はいつも彼女のために空けられていた。
映画を観に行ったとき、チケットを一枚買い忘れたこともあった。
そのとき拓海は軽く手を振り、私だけ次の上映まで待っていればいいと言った。
みんなでアクセサリー作りに出かけたこともある。だが私が会計を済ませて顔を上げると、周りには誰もいなかった。
ショッピングモールの中をさんざん探し回り、ようやくレストランで四人を見つけた。
私に気づいた航平は、ただこう言った。
「柚葉がお腹すいたって言うから、先に来て注文してた」
一言メッセージを送ろうとすら、思わなかったのだろう。
テレビから再び悲鳴が響いた。柚葉は拓海の胸に飛び込むように身を寄せ、健太と航平も笑いながら彼女をなだめていた。
私は視線をそらし、一人で部屋に戻った。
服、身分証明書、パソコンの充電器など、必要なものを一つずつスーツケースに詰めていく。
パソコンだけは、まだ机の上に残してあった。私はスマホを取り出し、志保にメッセージを送った。
【航空券はもう取った。明日、用事を済ませたら出発するね】
志保からすぐに返信が来た。
【了解!こっちで待ってるね】
私はスマホを置き、スーツケースのファスナーを閉めた。