初恋に夢中な夫をポイして逆転第1話
第1話は約2,302文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
大塚辰也(おおつか たつや)と結婚して七年。この男は、他の女とベッドを共にしていた。
今回、私は電話で問い詰めるなんて野暮な真似はしなかった。黙って離婚届をテーブルに置き、自分の荷物だけまとめると、この家を後にした。
辰也はまったく気にも留めていないようだった。
ただ、他の女とのキス写真を送ってきて、私を脅してきた。
「今回こそ、弱音を吐くなよ。根性見せてみろよ」
私は静かに電話を切り、彼の連絡先を全部ブロックした。
一ヶ月後、辰也は我慢できずに、自ら私の新居に来た。
でも、ドアを開けたのは、私の新婚の夫だった。
辰也はついに焦り出した。
「琴音(ことね)、悪かったって!もう、これ以上拗ねるのやめてくれよ、な?」
* * *
大塚辰也(おおつか たつや)と結婚して七年。
この男は、他の女とベッドを共にしていた。
今回は、電話で問い詰めるなんて野暮な真似はしなかった。
黙って離婚届をテーブルに置き、自分の荷物だけまとめると、私はこの家を後にした。
辰也はまったく気にも留めていないようだった。
ただ、他の女とのキス写真を送ってきて、私を脅してきた。
「今回こそ、弱音を吐くなよ。根性見せてみろよ」
私は静かに電話を切り、彼の連絡先を全部ブロックした。
一ヶ月後、辰也は我慢できずに、自ら私の新居に来た。
でも、ドアを開けたのは、私の新婚の夫だった。
辰也はついに焦り出した。
「琴音(ことね)、悪かったって!もう、これ以上拗ねるのやめてくれよ、な?」
......
辰也との結婚七周年記念日、私は彼にメッセージを送って、仕事が終わったらすぐにレストランに来るように伝えた。
このレストランは予約が取りにくいから、一週間前から予約しておいたんだ。辰也も快く承諾してくれた。
六時前、辰也は「ちょっとした会議があるから、六時半までには絶対に行く」って連絡してきた。ついでに、私がデザインしたペアリングを店から持ってきてもらうよう頼んだ。
だって、結婚して七年。以前の指輪は純銀で、素材としては大したことなかった。今は生活も豊かになって、辰也も財界でそれなりに顔が利くようになったんだから、彼の地位にふさわしい指輪を身に着けるべきだと思ったから。
だけど、私はレストランで九時過ぎまで待った。他のお客さんが次々と来ては去っていくのを、何度も時計を見ながら見送った。
結局、十二時になって、店員さんが親切に「閉店時間になりますが......」と声をかけてくれた。午後いっぱい座りっぱなしで、足が少し痺れていた。辰也に電話をかけたけど、ずっと応答なし。
気分は少し落ち込んでいた。結婚したばかりの頃、辰也は私と過ごすイベントを一つたりとも逃さなかったのに。仕事が忙しくなるにつれて、私への対応もどんどん適当になっていった。
結婚四年目には、記念日を祝うことだけが、私たちに残された唯一のイベントになっていた。
七年目の浮気という言葉が、私の心に不安を募らせた。
レストランを出た直後、辰也が女と腕を組んで隣のホテルに入っていくのを見た。私は風の中に立ち尽くした。まだ冬じゃないのに、夜風がこんなにも身に染みた。
信じられなくて、スマホを取り出し、カメラの倍率を上げた。その横顔は、七年間、毎晩数えきれないほど見てきた、あまりにも見慣れた顔だった。
何かに憑かれたように、シャッターを切った。
辰也が私を裏切るなんて、考えたこともなかった。ましてや、こんな特別な日に、なんて。
遠ざかっていく二人の背中をただ見つめ、私はついに力が抜けて、その場にへたり込んだ。しばらく立ち上がれなかった。
私が辰也と結婚したのは、実家の繋がりがあったからだ。父が辰也の祖父の命を救った。
そう、自分の命と引き換えに。
辰也の祖父は、未亡人となった母と私に金銭的な援助をしてくれただけでなく、私の教育にも尽力してくれた。私は成績が良かったので、辰也と同じ大学に入ることができた。
卒業後、辰也の祖父が直接、私を辰也に嫁がせることを決めた。これに対し、辰也は反対しなかったどころか、むしろ私に優しくしてくれた。まるで学生時代のように、何かと気遣ってくれたし、私を庇ってくれた。私を見下すような連中も、辰也が遠ざけてくれた。
私は、辰也が私のことを好きだと信じていた。
浮気は許されないというのが大塚家の家訓で、辰也も以前、たとえ死んでも浮気はしないと私に誓っていた。
今、目の前の光景を見て、私の頭の中は真っ白になった。
どうやって家に帰ったのかも覚えていない。スマホを開くと、見知らぬ番号から一枚の写真が送られてきていた。写真には、二つの手が指を絡ませていて、私が心を込めてデザインしたペアリングがキラキラと輝いていた。
添えられたメッセージは。
【あなたの指輪、ありがたく頂戴するね。サンキュー】
私はスマホを握りしめたまま立ち尽くし、胸の奥がえぐられるような痛みに襲われた。
そう、私はジュエリーデザイナーだ。このペアリングは、私が一年かけて、心を込めて描き上げたデザイン画だ。世界に一つだけのデザインで、長年の辰也への想いが詰まっていた。
当時、私が辰也を好きだったことは、誰も知らなかった。うまく隠しているつもりだったけど、彼と結婚することを知った時、全てを打ち明けた。
気のせいかもしれないが、辰也の顔に驚きの表情は見えなかった。
彼はいつものように穏やかに微笑み、私の手を握って言った。
「一生、君を大切にするよ」
あの時、辰也の手のひらに、少しも温もりがなかったとしても。
私は力なくソファに座り込んだ。その番号から、再びメッセージが届いた。
【私、誰だか分かる?辰也の元カノだよ。今、帰ってきたから、あなたはもうお役御免ってこと】