取り残されたのは、心臓破裂の僕第1話
第1話は約1,688文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
僕は弟と一緒に交通事故に遭った。
僕は心臓が破裂して、すぐに手術が必要だ。
なのに、病院長である母は、医者たちを全員弟の病室に集めて、かすり傷程度の弟に全身検査を受けさせていた。
僕は必死に母に助けを求めたが、返ってきたのは冷たい叱責だ。「今そんなに注目されたいの?楓太(ふうた)が骨折したらどうするつもりなの!」
最後に、僕は誰にも気づかれない片隅で静かに息を引き取った。
けれど、僕の死を知った後、あれほど僕を嫌っていた母は、狂ってしまった。
* * *
僕は弟と一緒に交通事故に遭った。
僕は心臓が破裂して、すぐに手術が必要だ。
なのに、病院長である母は、医者たちを全員弟の病室に集めて、弟に全身検査を受けさせていた。
死の三分前、僕の魂は母のそばに漂った。
母は弟の病室のベッド脇に座り、心配いっぱいで祈っている。「楓太、ママを怖がらせないで……早く目を覚ましてよ」
父は怒りに満ちた声で怒鳴っている。「坂本秋良(さかもと あきら)ってやつは、あのクズが楓太を守らなかったからこうなったんだ!あとでぶっ殺してやる!」
僕はその光景を見つめながら、胸の奥に苦しみが広がっていく。
父さん、殴る必要なんてないよ。僕は、もう死んだから。
あなたたちの冷たさの中で死んだ。
医者たちは坂本楓太(さかもと ふうた)のベッドのまわりに集まり、検査結果を確認していた。
彼が骨に傷があっただけで命に別状はないとわかると、そのうちの一人が恐る恐る口を開く。「院長、秋良くんの方は、本当にいいんですか?かなり重傷のようですが」
母の表情が、一瞬で心配から嫌悪に変わって、大きな声で叫ぶ。「またあの子、何の芝居してるの?今度は死んだふりでもしてるの?楓太をこんな目に遭わせたなんて、あいつが知らないのか!」
僕は呆然と母を見つめながら、止まったはずの心臓がズキリと痛んだ。
僕もあなたたちの息子なのに、どうして少しも心配してくれないの?
そのとき、母がスマホを手に取り、僕の番号を押した。
看護師がスマホを僕の耳元にあてる。そして聞こえてきたのは、僕が期待していた彼女の心配の言葉ではなく、いつもの罵声だ。「秋良!いつまで逃げてるの?さっさと楓太に謝りに来て!」
もう、心のどこにも期待なんて残っていない。
そうだ、最初から母は僕を愛してなんていなかったんだ。
確かに、病院に運ばれた時、僕は必死に母に助けを求めたが、彼女はただ「今そんなに注目されたいの?楓太が骨折したらどうするつもりなの!」と吐き捨てただけだった。
そして、彼女は振り返りもせずに全ての医者を連れて楓太のもとへ向かった。
僕を愛する余裕なんて最初からなかったんだ。
看護師が見ていられなく、僕のスマホを手に取る。「院長、秋良さん……本当に危険な状態です!」
けれど、僕が芝居をしていたと信じた母は冷笑を浮かべただけだ。「なに?あの出来損ないから金でももらったの?あいつがすごい手段だね、あんたもそんな茶番に付き合うなんて!」
その瞬間、ずっと意識がないふりをしていた楓太がゆっくりと目を開けて、わざとらしいほど弱々しい声でつぶやく。「父さん、母さん……兄さんは……大丈夫なの?」
母はその大人しい顔を見ると、表情がさらに険しくなる。「秋良、あんたも楓太みたいに少しは大人しくなるよ!!楓太はあんたのせいでこんな目に遭ったのに、あんたを心配してるのよ!三分以内に楓太に謝りに来て、来ないなら、二度と私の前に現れないで!」
電話を切って、母の胸が激しく上下していた。
その隣で父は苛立った顔のまま言う。「呼ぶ必要なんてないだろ!あいつは楓太をこんなにした張本人だぞ!」
楓太は得意げな笑みを隠しきれず、黙ってうつむいて、疚しそうな表情で彼らを見つめる。「父さん、母さん、怒らないで。兄さんはずっと、俺が彼の留学の推薦を取ったことを恨んでるんだ。俺が悪いんだよ」
滑稽だ。
僕がもう死んだのに、楓太はまだ僕と両親の関係をかき乱してやがる。
でも、彼らは気づかない。
彼らにとって楓太は、いつでも僕より素直で優しい息子だ。
まさか、彼らはその「いい子」が、僕を車道に突き飛ばした張本人だなんて、想像もしないだろう。