取り残されたのは、心臓破裂の僕第2話
第2話は約1,025文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
案の定、母の顔が一瞬で冷たくなる。「そんな自己中な奴を留学させても無駄よ!どうせ海外で心まで腐るんだから!」
楓太はいつものように大人しく言う。「母さん、怒らないで。兄さんもきっと苦衷があったんだよ」
その言葉に、母の目が一瞬で柔らかくなる。「楓太はほんとに優しい子ね。だからあんな兄にいじめられるのよ」
どう言えば両親が喜ぶのか、楓太はいつだって分かってる。
たとえ僕が両親の前で、楓太が昔からどれだけひどいことをしてきたかを全部話したとしても、彼らはきっと僕を平手打ちして、「でたらめ言うな、楓太を妬むだけだ」って怒鳴るんだ。
もう何年も前から、そんな扱いには慣れた。
そのとき、姉の坂本碧唯(さかもと あおい)がバタバタと飛び込んできて、慌てて楓太の傷を確認する。
楓太の事故を聞いた瞬間、彼女は他県から飛行機に乗って、休む間もなく帰ってきた。
両親と同じで、彼女が心配しているのも楓太だけだ。
無事を確認すると、姉はほっと息をついて、怒りをあらわにする。「ほら見ろ、秋良はうちの厄病神なんだよ。楓太が生まれてから、何度もあいつのせいで危ない目に遭ったのよ!」
楓太はそれを聞いて、わざと甘えるような声を出す。「まあまあ、姉さん怒らないでよ。兄さんが俺を車道に押しても、きっとわざとじゃないよ!」
その一言で、空気が爆発した。
父がテーブルを叩いて怒鳴る。「なんだ、あいつが、お前を突き飛ばした?」
母は歯を食いしばって叫ぶ。「あのクズ、絶対に許さない!」
姉の目には憎しみが宿って、まるで僕を八つ裂きにしたいみたいだ。
楓太は一瞬びくっとして、やりすぎたと気づいたのか、慌てて言い直す。「父さん、母さん、姉さん、怒らないで。もしかしたら俺の勘違いかも……兄さんだって、そんなことする人じゃないよ」
姉は優しく楓太の額を指でつつく。「ほんと、楓太は素直すぎるのよ。人の悪意なんて、わかるわけないもんね」
「神様に何度感謝しても足りないわ、こんなにいい子を授かるなんて。
あの出来損ないのことなんて放っておいて、あなたはゆっくり休むよ」
夕陽のやわらかな光が病室のベッドを染めていた。僕は喜んでいる四人を見つめながら、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
あの幸せそうな家族の中で、僕の魂だけが異物だ。
まるで、僕は彼らの家族ではなく、ただの拾われた野良犬みたいだ。
僕は逃げたいが、魂が母のそばに縛りつけられたままで、声を出すこともできない。ただ、彼らが僕を侮辱するのを、黙って見るしかない。