取り残されたのは、心臓破裂の僕第3話
第3話は約1,193文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
数日後、家族の丁寧な看護の末、楓太は退院の日を迎えた。
母はあれこれ荷物をまとめ、父は「歩かせたら疲れる」と言って、車を病院の入口まで乗りつけた。姉は、靴を履かせるのさえ「自分でしなくていい」と言って手伝った。
帰りの車の中、母は不機嫌そうにぼやく。「まったく、秋良はほんとどうしようもないね。楓太が退院するっていうのに一度も顔を見せに来ないし、謝ることもない。帰ったらきっとお灸を据えてやる!」
父は母を一瞥して言う。「だから言っただろ、あいつを家に置いておくのは災いのもとだって。いつかこうなると思ってたよ」
「お灸を据える」という言葉を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
記憶の底に沈んでいた光景が、次々と浮かび上がってくる。
小さい頃から、母はいつも楓太をひいきしていた。僕は何をしても「弟に譲る」と言われた。
楓太が生まれた日、僕はうっかりテーブルの上の水をこぼしてしまい、母が足を滑らせて早産になった。
保育器の中で小さな身体を震わせる楓太を見て、家族はみんな泣いていた。
そして父は僕を平手で殴りつけ、鼓膜が破れるほどの痛みを与えた。「お前みたいな子は不吉だ!楓太が死にかけたのも全部お前のせいだ!」
ベッドの上の母は、弱々しく目を開けて僕を見た。その瞳には失望が満ちた。
小学校のある日、僕はただ楓太とおもちゃの車を取り合っただけで、父に殴られ、三日間ベッドから起き上がれなかった。
それは僕が一番好きなおもちゃだった。
それはもともと、父が出張の帰りに楓太へのプレゼントを買ったとき、ついでに渡してくれたものだったが、僕にとっては一番のお気に入りだった。
でも楓太は、自分の部屋に山積みほどのおもちゃがあったのに、わざわざ僕のおもちゃを奪いにきた。
揉み合いの末、彼が悲鳴を上げて、大声で泣き出した。
その瞬間、母は心配そうに楓太を抱きしめて、泣きながら僕に叫んだ。「坂本秋良!楓太があんたのせいでどれだけ苦労して生きてきたかわかってるの?まだ傷つけるつもり?」
「違う、僕じゃない……」
言いかけた瞬間、楓太はわざと涙をぽろぽろこぼして、「ママ、怒らないで。僕が悪いんだ。お兄ちゃんとおもちゃを取り合っちゃったから……」と言った。
帰ってきた父はその光景を見て、僕をつかんで殴りつけた。
「こんな冷たい子なんて、捨てたほうがいいぞ!家に置いておくのは災いのもとだ!」
僕は泣きながら「やめて」と叫んだ。でも、泣けば泣くほど「また演技してる」と言われ、拳はどんどん重くなっていった。
母も姉も、ただ遠くから黙って見ているだけだった。
まるで、僕のような仇が殴り殺されるのを待っているかのように。
その日から、僕は少しでも楓太を泣かせると、両親の𠮟責と暴力が降りかかるようになった。
そして僕は、楓太と愛を争うことも、言い訳をすることも、彼らに近づくことも、もうやめた。
今、僕は彼らに冷たい手術台の上に捨てられてしまった。