愛されなかった娘第2話
第2話は約1,323文字で、このサイトに収録された2章の冒頭章のうち最後の章です。第3話は公式アプリで続きます。
「あなたは被害者とどういう関係ですか?」
「友達です」
「では、彼女のご両親の連絡先はわかりますか?」
「いいえ、彼女は何も教えてくれなかったので......」
唯さんは首を振り、声を震わせながら言った。
そう、私は何も話さなかった。
私は立ち上がり、部屋の隅に飾ってある家族写真に目をやる。
そこには四人が写っている。
三人は肩を組んで笑っているのに、私は無理やり貼り付けたような不自然な笑顔。
明らかに余所者のようだった。
実際そうだった。あの家では私は嫌われ者でしかなかった。
鼻で笑い、また唯さんのそばに戻る。
警官たちは私の遺体を運び出し始めた。自分の体が目の前を通り過ぎる光景なんて、妙な気分だ。
唯さんは私の遺体を目にして、再び顔を覆って号泣した。
現場を調べ終えた警官が、唯さんに事情を聞くため署へ連れていく。
私もついて行った。
女性警察官が私の携帯から両親へ連絡する。
「もしもし、八角 莉子(はっかく れいこ)さんのご両親でしょうか?」
出たのは八角 信昭(はっかく のぶあき)、私の父だ。
彼は何かくぐもった声だった。ガヤガヤとした音が背景に混ざっている。どうやら麻雀でもしているのだろう。
女性警官は少し苛立ちを含め、語気を強めた。
「こちら静岡県警察署です。八角莉子さんが今日20時半頃、殺害されました。身元確認のため、来ていただけますか?」
父の方は「わかった」とも「了解した」とも言わず、よくわからない曖昧な相槌の後、「ロン!金払え!」という歓喜の声とともに、電話を早々と切った。
女性警官は呆れ顔で携帯を見下ろした。
「なんて人たちなの......」
期待はしていなかったが、やはり胸がちくりと痛む。
唯さんが取調べ室から出てきたところで、女性警官が状況を説明すると、唯さんの目には怒りの炎が宿った。
「唯さん、そんなに怒らないで。私はもう慣れてるから。怒ると老けちゃうよ?」
私はいつもみたいに変な顔して笑わせようとして、ハッと気づく。
もう変顔すら見せられないんだ。
ため息混じりに空を仰ぐ。
「はぁ......一体いつ生まれ変われるのかな......」
「すみません…もう一度、莉子ちゃんを見てもいいですか?」
唯さんが女性警官に頼む。
電話越しの対応で察したのか、警官は同情気味に頷いた。
私は警察署の長椅子に腰掛ける。
このベンチを見ていると、17歳の頃、公園のベンチに横たわっていた記憶がふっと蘇る。
死んで幽霊になったら、なんだか感傷的になるものだ。
あの夜は家が騒がしかった。誰もかれも怒鳴りあって、最後には私に矛先が向いた。
私は部屋の隅で縮こまっていたが、ドアが乱暴に開け放たれ、逆光の中、信昭の恐ろしい形相が浮かんだ。
彼はまるで仇敵を見るような目で私を睨み、一直線に近づいてきた。
後ずさりしようにも行き場はない。
信昭は私の髪を乱暴につかみ、そのまま廊下へと引きずり出した。
頭皮が引き剥がされるような痛みで、私はただ引きずられるしかなかった。
必死に「お兄ちゃん、お母さん、助けて!」と叫んでも、そこにいる八角 美穂(はっかく みほ)も八角 陽翔(はっかく はると)も一歩も動かなかった。
朦朧とする視界に映ったのは、まるで他人事のように私を見る二人の無表情な顔だけだった。