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月を杯に、群山を友に第1話

第1話は約2,579文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。

「三浦先生、決めました。先生の薬学研究所に入って、薬学の研究を続けます」

三浦敬一(みうらけいいち)先生は微笑んで言った。「君の旦那さん、あんなに君のことを愛してるのに、君が海外に行って学術研究を続けるのを許すのかい?」

「これは私自身の意志です。彼とは関係ありません」

「そうか。じゃあ、いつ来られる?」

「1週間後です」

「わかった。じゃあ君が来るのを待ってるよ」

「そうだ、三浦先生。先生がこの前開発していた記憶喪失の薬、あれ、まだ治験バイトが足りないんですよね?」

三浦先生の声が急に厳しくなった。「君、それはどういう意味だ?」

「その薬、送ってもらえますか?私が試してみます」

* * *

「三浦先生、決めました。先生の薬学研究所に入って、薬学の研究を続けます」

三浦先生は微笑んで言った。「君の旦那さん、あんなに君のことを愛してるのに、君が海外に行って学術研究を続けるのを許すのかい?」

「これは私自身の意志です。彼とは関係ありません」

「そうか。じゃあ、いつ来られる?」

「1週間後です」

「わかった。じゃあ君が来るのを待ってるよ」

「そうだ、三浦先生。先生がこの前開発していた記憶喪失の薬、あれ、まだ治験バイトが足りないんですよね?」

三浦先生の声が急に厳しくなった。「君、それはどういう意味だ?」

「その薬、送ってもらえますか?私が試してみます」

……

電話をかけたのは、朝の9時半だった。

村濱菜月(むらはま なつき)は布団にくるまってベッドのヘッドボードにもたれかかっていた。

隣に寝ていた人はすでにいなかった。

隣室のゲストルームからは、かすかに艶めいた声が漏れ聞こえてくる。

「……会いたかった?」

「月に一度しか会えないから、時間がすごく遅く感じるの」

「ふっ」男が鼻で笑った。「じゃあ、今日はたっぷり可愛がってやるよ?」

「ちょうど、声を抑えて……菜月さん起きちゃう」

「平気だよ。昨日は遅くまで起きてたし、まだ寝てるだろ」

「ん……やだ、もう……」

この女の子の声、菜月はよく知っていた。

名前は早瀬桜子(はやせ さくらこ)。菜月が4年間援助してきた女子大生だった。

月に1日に家に来て、生活費を渡し、学業や生活について気遣ってきた。

来るたび、寝室の隣のゲストルームに泊まっていた。

大学院の指導教授とインターン先までも、菜月が手配していた。

けれど、この娘の「志」は、自立や努力ではなく、自分の夫を奪うことだった。

そういうことなら、譲っても構わない。

菜月は自分の名前を「賀来澄(かく すみ)」に変えた。

すでに新しい免許証も取り直した。賀来澄は「隠す身(かくすみ)」の意味とする。

一度裏切った者は、二度と信じることはない。

彼の世界から姿を消し、そして記憶を消す薬を飲む。彼のことを、永遠に忘れる。

隣の部屋の声は、ようやく止んだ。

菜月は横になり、まだ眠っているふりをした。

数分後、ベッドのマットレスが少し沈んだ。

重い腕が、彼女の腰に回された。

菜月は胸の痛みをこらえ、その腕を押しのけた。

神崎晨也(かんざき しんや)は、まるで寝起きのように呟いた。

「菜月ちゃん、起きてたの?」

菜月は「菜月ちゃん」を聞いて、キモいしか思わない。

「うん、そろそろ起きないと、仕事に遅れるよ」

晨也は後ろから彼女を再び抱きしめ、肩にキスをした。「眠いよ……もうちょっとだけ、一緒に寝よう」

菜月は、心の中で冷笑した。

昨晩徹夜して頑張ったから、疲れるのは当然でしょう。

「どうしたの?昨日よく眠れなかった?」彼女は皮肉っぽく言った。

晨也は真面目な顔でうなずいた。

「昨晩、夢で悪い竜に君をさらわれて、私は茨の道を越えて君を探してた。

やっと見つけた。だから目覚めたら疲れてる」

「悪い竜なんか、私をさらったりしない」

けれど、自分で離れる。

そして、私は絶対に、あなたに見つけさせたりなんかしない。

晨也は時計を見て「もうこんな時間か、起きないと」と言った。

彼は素早くシャワーを浴び、服を着るとベッドの縁に片膝をつき、彼女にキスした。

「寝坊ちゃん、起きて、朝ごはん作ってあげるから」

晨也が出ていったあと、菜月は怒りをぶつけるように歯を磨いた。

先ばかり桜子をキスした唇で、自分をキスするなんて、想像だけで吐き気がした。

階下に降りると、すでに二人がダイニングに座っていた。

晨也は主の席に、桜子はその左側に。

黄色のワンピース姿で、いかにも清楚な雰囲気を漂わせていた。

菜月を見ると、にっこりと甘く笑って言った。

「菜月ちゃん、おはようございます」

菜月は「うん」だけと返した。

桜子は笑みを浮かべたまま言った。

「お義兄さんが作った朝ごはんはもうできたよ。どうぞ」

菜月が席につくと、晨也が粥をふうふうと冷まして彼女の前に置いた。

「菜月ちゃん、熱いから気をつけて」

桜子が隣で羨ましく言った。

「いいな、菜月さん。こんなに大事にされて」

菜月は作り笑いで「あなたも大事にされてるじゃない」と返した。

昨晩も「可愛がられて」だと忘れた?ずっと朝方まで。

晨也はニッと笑った。

「違うよ、君を大事にしているのは君は私の妻だ。この一生大好きな女性だから」

「じゃあ桜子は?彼女のことも、どうして気になるの?」

「だって君が援助してた子だろ? 妹みたいな存在だって言ってたし、私にとっても妹だよ」

「そうか」

菜月は自分の粥を彼の手から奪い返した。

「もう吹かなくていい。冷めたら食べるから」

晨也は彼女の態度が変わったと気づき、彼女の手を取って唇にキスした。

「どうしたの? 朝から不機嫌だね。ご飯が口に合わないか、食べたいものがあれば、作ってあげるよ」

菜月は手を引っ込めて訊いた。

「晨也、私を愛してる?」

「もちろん。みんなも知ってるよ。私がどれほど君を愛してるか」

「じゃ、男は二人の女を同時に愛することって、あると思う?」

晨也は眉を少しひそめて答えた。

「ほんとの愛はただ一人に向けるものだ。余計なものは入ってはいけない」

「もし、あなたの気持ちが変わる日が来たら、そのときは正直に言ってください。私は身を引くから。でも、嘘はつかないで。私の愛情は貴重で、ピュアでないといらないわ」

晨也は笑った。

「安心しろ、私はこの一生、君だけを愛する。誰にも君の代わりなんてならないよ」

「もし、現れたら?」

「あり得ないさ」

「もし私を騙したら、あなたの元から離れるわ。そして、あなたのことを永遠に忘れる」菜月が言った。

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