永遠の愛を君に第1話
第1話は約2,337文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
今日は颯(はやて)がSNSに投稿すると言った日だ。
私は彼と人目を忍ぶ恋を5年も続け、これでやっと堂々と恋愛できるようになる。
私はそれが嬉しくて、徹夜で私たちのツーショット写真を編集し、5分間の短い動画にまとめた。
そして彼の誕生日が来た瞬間、その動画をSNSにアップした。
しかし、ものの一秒で誰かが私のアカウントにログインし、その動画は消えてなくなった。
それと同時に、颯からメッセージが送られてきた。
【莉緒(りお)、君の親友が失恋したんだ。君がアップした動画を見たらまた悲しませるだろう。いい子だからさ、もうちょっと待ってからまたアップしよう】
すると藤野芽衣(ふじの めい)からもメッセージが届いた。
「彼のこと、何とかしてよ。さっきバーに到着したばかりなのに、突然彼が来て私を車に乗せたのよ、本当にあきれた!」
二人のメッセージが立て続けに送られてきた。
それは私たちが旅行に行った時と同じで、あの二人が前を歩き、私が後からついて行くようだった。
今回、SNSに私と颯が実は付き合っていたことをアップして、周囲に知らせるのは、彼にあげた最後のチャンスだった。
でも、彼にその気がないというのなら、もういい。
* * *
私は何度も動画を見かえした。一つ一つの写真をズームし、以前颯が私を愛してくれていた時の様子を見つめた。
その時、玄関のドアが開いたと思うと、芽衣のカツカツというヒールの音が響いた。
颯はいつものように屈んで彼女にピンクのウサギ耳がついた可愛らしいルームシューズをとって渡した。それは颯が彼女に買ってあげた芽衣専用だ。
芽衣は靴を履きかえようと彼の肩を支えにして、足をあげた。その時足が彼の腕に触れ、二人の姿勢はかなり曖昧な雰囲気を漂わせていた。
二人の様子を見ていると、ふいに以前のことが蘇ってきた。この間、出かけていた時に靴紐がほどけてしまい、私は甘えた声で彼に結んでと頼んだ。
彼は振り返って、私をちらりと見た。
「莉緒、お前さ、もう大人なんだから、そんな子供みたいなことを言うなよ」
その言葉に私は恥ずかしくて顔が赤くなり、急いで屈んで靴紐を結び直すと、すぐに彼の後を追いかけた。
でもあれは、私が子供っぽいと嫌っていたわけではなく、彼が大事に可愛がっていたのは私ではなかったからか。
この時、芽衣が今ようやく私に気付いたかのように、こちらを見てきた。
「あら、莉緒、家にいたんだね」
芽衣はソファに座り、足を組んでローテーブルの上に置くと、すぐ傍にあったクッションをつかんだ。そのあまりに自然な動作に、ここはまるで彼女の家のようだと思った。
ただ、この家にある全てのものは、私が颯と気持ちよく暮らせるように、吟味して選び抜いたものばかりだ。
颯は薬箱を持って来ると、これはまた慣れた様子で芽衣の前に跪き、消毒液を綿棒に浸して彼女に塗ってあげた。
芽衣は傷口にしみたのか、痛そうに眉をひそめて私のほうを向いた。
「ねえ、莉緒。あなたってば颯みたいな彼氏によく耐えられるわよね。こんなかすり傷にも薬を塗るのよ。私がお酒を飲むのだってうるさく……」
「あら、その人が私の彼氏だってこと、あなた知ってたんだ」
私は芽衣の言葉を遮ると、顔をあげて彼女に微笑んだ。
その言葉に芽衣は驚いていた。颯の手もその瞬間ピタリと動きを止めた。
私は二人には気づかれないところで、ぎゅっと拳を握りしめた。あまりに力を込めていたため、爪が手のひらに食い込み、その痛みでどうにか冷静さを保っていられた。
芽衣は不満そうな目つきで私を見てきた。
「ちょっと莉緒、まさか私が颯に気があるんじゃないかとか思ってる?あなたが颯と付き合っていることを今は周りに教えられないって言ったから、私がこうやってしょっちゅう来て、事実を隠してあげてるんじゃないの」
そうだ。それは、もし早い段階で私たちが付き合っていることを周りが知り、結局別れるようなことになったら、私の名誉に傷をつけるとかなんとか颯が言って、5年ものあいだ秘密にしていたのだ。
颯は慎重な手つきで芽衣に絆創膏を貼ってあげると、立ち上がり、責めるような眼差しを私に向けてきた。
「莉緒、でたらめなことを考えるにしても、度を超しているぞ。お前のためじゃなかったら、俺が芽衣の行動にいちいち気を配ってるのは何のためだよ?」
彼がそう言い終わると、芽衣が抱いていたクッションを彼に投げつけた。
「誰がそうしてくれって頼んだのよ!」
そう言うと、彼女は立ち上がろうとしたが、颯が彼女の体を押さえた。
「じっと座ってるんだ。さっき薬を塗ったばかりなんだから」
二人のまるで当たり前のようなイチャつきっぷりに、ぶちまけたい気持ちが、喉まで来てまた引っ込んでしまった。
今日晴れて彼との交際を周りに公表できたお祝いとして鍋を作ろうと思っていた。その材料がキッチンに置かれている。
その食材はほとんどが私の好きなものばかりだ。しかしこうなった今、それは別れの最後の晩餐とすることにしよう。
鍋がぐつぐつと湯気をあげている。芽衣は私の隣、そして颯は私の向かい側に座った。
辛い物好きな芽衣は、自分の小皿に唐辛子を大さじ一杯入れた。それを見た颯が眉をひそめて彼女の手からそれを取り上げた。
そして私のタレが入った小皿と取り替えて、それを芽衣の前に置いた。
「怪我したんだから、辛い物は避けるべきだ。早く良くなりたくないのか?」
芽衣は辛い物が大好きだが、私は大っ嫌いだ。颯も以前からそれをよく知っている。
昔から、私が夜中にお腹を空かせた時、彼は眠たそうな目をしながらもデリバリーを注文する時には、しっかりと辛いものではないか確認してくれていた。
今、私は目の前に置かれた唐辛子入りの小皿を見つめ、突然、この5年に執着する必要もないように感じた。