永遠の愛を君に第2話
第2話は約2,078文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
私は箸を置くと、立ち上がってドアのほうへ歩いていった。
颯が私を追いかけてきて、強い力で私の腕を引っ張った。
「芽衣は失恋したばかりなんだぞ。お前は彼女の親友なんだから、少しは慰めてやるべきだろ。さっきから今までずっとムスっとしてさ、一体何を考えてるんだよ?」
私は、今目の前にいる5年の間、大好きで愛していた男を見つめた。
「ねえ、颯」
私は彼に言った。
「あなたって、毎回見事に私の期待を裏切らないわよね」
私の言葉が理解できないらしく、彼は眉間に皺を寄せていた。
するとこの時、突然リビングから「キャアッ!」という叫び声が聞こえてきた。
その声が聞こえた瞬間に、彼は私に背を向けて、芽衣のもとへ急いだ。
私は視線を戻し、彼らに背を向けてここを去った。
少し前に会社から、私に高見原市にある支社へ異動してもらいたいと通知が来ていたが、その時は少し考えさせてほしいと断わっていた。
それは、颯から遠距離恋愛はしたくない、毎日私と一緒にいたいと言われたからだ。
しかし今、彼と暮らした家にあるあのピンク色のルームシューズに、さっきの唐辛子が入った小皿を頭に思い浮かべた。
私はきっとかなり前から二人の中で「はみ出し者」になっていたのだろう。それに今私はようやく気付いただけだ。
私は颯と付き合い始めるとすぐに親友の芽衣を紹介した。
あの頃、芽衣にはまだ彼氏がいて、颯と芽衣はお互いの立場をはっきりと分けていた。
芽衣が彼氏と別れては仲直りを繰り返しているうちに、全てが私の知らないところで、徐々に変わっていたのだ。
芽衣は夜中に酔っぱらって私に電話をかけてきた。私は颯と一緒に彼女を迎えに行ってあげた。
芽衣が車の中で吐いてしまい、それを嫌った颯は車を中古で売ってしまった。
芽衣が彼氏と別れると騒ぎ始めて私に相談しに来るようになってから、颯はとてもうんざりしていた。彼は何回も二人っきりの世界になれないと愚痴をこぼしていた。
それがだんだん文句を言う数は減っていき、芽衣が酒に酔っていても嫌悪しなくなっていった。
芽衣が酔っぱらうと、颯が真っ先にふらつく彼女の体を支えてあげて、コンビニに酔い覚ましのドリンクを買いに行き、辛抱強く彼女の背中をさすってあげた。
私たちが遊びに出かけた時には、彼はいつも芽衣を連れていけば、私たちが付き合っていることを隠すことができるから、と言っていた。
あの二人が肩を並べて前を歩き、私はその後ろから芽衣の鞄と上着を持ってついていった。
颯が芽衣の写真を撮ると、写真写りが悪いと言って、芽衣は彼に手取り足取り長い時間をかけて写真の撮り方のコツを教えてやっていた。
二人は顔を寄せあい、芽衣の髪の毛が風に吹かれて颯の横顔を撫でると、彼は周りには気づかれないくらい微かに口角を上げていた。
その瞬間、私はとても馬鹿馬鹿しく思った。
私は持っていた芽衣の鞄と上着を彼らに押しつけて、急ぎ足でホテルに戻った。
その夜、私は颯と大喧嘩になった。
「莉緒、お前、考えすぎなんだよ。ただ芽衣ちゃんを連れていれば俺たちの関係が誤魔化せるだろう。そのために来てもらってるんだぞ。彼女は何も悪くない」
私は彼のその言葉に呼吸もうまくできないほどに大泣きした。
「それなら私たちの関係を隠す必要なんてないじゃない!もう付き合って5年よ。どうしてあなたは私にこんなふうにするのよ。なんだかあなたと付き合うのはこそこそしているみたいで、私、とってもつらいのよ。分からないの?」
颯は長い間私をじっと見つめ、近づいてぎゅっと抱きしめてきた。
「分かった。そこまで言うならSNSで付き合ってることをみんなに知らせよう」
その結果、芽衣が完全に彼氏と別れたあの日、彼が私のアカウントにログインして、私が寝ずに苦労して作ったあの短い動画を消してしまった。
彼は私たちの間に微かに残っていた愛を消してしまったのだ。
私は涙を拭い、スマホを開いて電話をかけた。
「決めました。私、高見原に行きます」
私が家に帰った時には空はすっかり暗くなっていた。鍋は片付けられずにそのまま放置され、油が固まっていた。颯と芽衣はいなかった。
私はソファに座り、SNSのログインパスワードを変更しようと思っていたが、開いた瞬間、ある動画が目に飛び込んできた。
それは颯と芽衣が一緒に作った動画だった。
その中には編集された写真があった。上の写真は芽衣が颯の胸に寄りかかっているもので、下には胎児のエコー写真がくっついていた。
そして動画のBGMは最近恋人たちの間で流行っている「永遠の愛を君に」という曲だった。
私が編集したあの5分動画で使った曲と同じだ。
私は無意識にスマホを強く握りしめた。喉の奥が締め付けられるように苦しくなってくる。
ポタリと一粒の涙がスマホの画面に落ちた瞬間、颯から電話がかかってきた。
「莉緒、もしかしてインスタ見た?説明するよ、あれはさ……」
「その必要はないわ」
私は何も考えず、声が勝手に口から出てきた。
「これから先、一切説明なんて必要ないから。颯、別れましょ」
そう言うと一方的に電話を切り、私は高見原市へ行くための飛行機チケットを予約した。