親友の妊娠を喜ぶ夫、あなた種なしなのに第3話
第3話は約1,711文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
コロッケには、細かなガラスの破片が混入していたのだ。
飲み込むたびに、喉が針で突き刺されるような激痛が走る。
私は激痛に耐えながらそれを吐き出し、泉に問い詰めた。
「中にガラスを混ぜるなんて、これがあなたの言う『謝り』?」
歪む私の表情を見た裕司は、訝しげに泉を見た。
泉はすぐさま瞳を濡らした。
彼女は今にも倒れそうな様子で裕司にもたれかかった。
「私は何もしていない……
だってコロッケは、裕司も一緒に見てる前で作ったのよ。そんなもの入ってるわけないじゃない?
紬、私は本心からあなたに謝りに来たの。どうしてそこまでひどい嘘をついて私を陥れるの?私と私の子が死ななきゃ許せないの?」
泉のたった数言で、裕司の中で私の罪が確定した。
「紬、お前には心底がっかりしたよ……
今日、必ず泉に謝るんだ」
……
その時、思考が遠く昔へと流れていった。
まだ結婚して間もない頃、裕司の会社へ顔を出した際、秘書に故意に書類を汚したと濡れ衣を着せられた時のことだ。
身の潔白も証明できずにいた私に、突然裕司が現れて、大勢が見ている前でその秘書をクビにした。
あの時、彼は言った。
「俺は無条件で妻を信じる」
だが今の彼が、無条件で信じる相手はもう私ではなくなっていた。
「悪いのは私じゃない。何で謝らなきゃいけないの?」
私は心に突き刺さる痛みを耐えながら、そう叫んだ。
私の態度が、裕司の怒りに油を注いだようだった。
彼は狂ったかのように、次々とコロッケを私の口へとねじ込んできた。
私が鮮血を吐き出してようやく、彼は手を止めた。
「紬、どうしたんだ?」
彼の声が微かに震えていた。
でも私には、もう返事をする気力すら残っていなかった。
意識が途切れる最後の瞬間、裕司の叫び声が聞こえた。
「早く119番を……」
再び目を開けると、目の前には心配そうな裕司の顔があった。だが、彼の口から漏れた言葉は、私の心を抉る刃のように鋭かった。
「泉と俺を恨む気持ちはわかる。だが、泉を陥れるために自分を傷つけるなんて馬鹿なことはやめろ」
反論しようと口を開いたが、一言も発することができない。
ガラスの破片で喉を傷つけたのか、それとも別の原因か。私は声すら失っていた。
私が喋れないと悟ると、裕司はすぐさま医師を呼びに席を立った。
すると泉が近づいて、私の耳元で私にだけ聞こえる声で囁く。
「声が出ない理由を知りたい?あんたが食べたコロッケの中に、毒を入れておいたのよ。
でもね、あんたは喋れないし、仮に必死で訴えたところで、裕司があんたの言うことを信じるわけないじゃない。
紬、あんたもあのみすぼらしいあんたのお母さんとそっくりね。底辺で一生足掻き続ける運命なのよ」
怒りで理性が吹き飛び、残った力の限りで泉を突き飛ばした。
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そのまま地面に倒れ込んだ。その股の間から、鮮やかな血が止まることなく流れ出していた。
その一部始終を、戻ってきた裕司が目撃してしまう。
彼はすぐさま泉を抱きかかえ、病室を後にした。
去り際、私を射抜くような冷徹な視線で彼は言い捨てた。
「泉になにかあったら、決してタダではおかないぞ……」
医師の診断によれば、泉は産後の外傷による続発性大出血だという。
裕司は私のせいだと決めつけた。
「仲の良かった親友じゃないか。お前はどうしてそんなに冷酷になれるんだ?
紬、本当に悪魔のような女だな……」
罵声を浴びせられ、私の心は完全に死んだ。私はただ震える指先でスマホを操作し、最後の一言を送信した。
【決意は固まりました。できるだけ早く迎えに来てください】
送信した直後、医師が駆け込んできた。病院のストックが足りず、泉への緊急輸血が必要だという。
「こいつから抜け!」
裕司は一瞬の迷いもなく私を指差した。
刺さった針から、血液が私の体外へ流れ出していく。
絶望の中、視線を裕司に向けるが、彼は冷淡な調子でこう言った。
「これはお前が泉に負った借りだ……」
何本抜かれたのかすらわからない。ただ、意識が遠のく感覚だけが明確だった。
最後は、ゴミ同然のように病室の隅へ置き去りにされた。
私は最後の力を振り絞り、裕司の「無精子症」の診断書を彼に送信した。
裕司、これが私からあなたへの最後のプレゼントよ。