身重の私を捨てて、後悔しても遅い第3話
第3話は約1,517文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
翌日、私は翔が投げつけた金で新しいスマホを買った。
そして銀行へ行き、共有口座の取引履歴を確認した。
案の定、一ヶ月前に五千万円の送金記録があった。
送金先は見知らぬ名だったが、最終的に誰の手に渡ったかは明らかだ。
私は取引履歴を写真に撮り、保存した。
ここ数日、翔は帰ってこなかった。
義母だけが相変わらず私を罵り続けている。
私は部屋に引きこもり、家事も料理も一切しなくなった。
好きに言わせておけばいい。
離婚して、財産分与を勝ち取るためには、写真一枚では足りない。
もっと多くの、決定的な証拠が必要だ。
リビングで水を飲んでいる時、書斎のドアが半開きになっているのが目に入った。
ピンときた。
翔には仕事用のサブスマホがある。主に「裏」の仕事を処理するためのものだ。
いつも書斎の引き出しに入れているはずだ。
義母が台所へ行った隙に、私は書斎へ忍び込んだ。
引き出しを開けると、案の定、黒いスマホがあった。
パスワードがかかっている。
翔の誕生日……違う。
私の誕生日……やっぱり違う。
莉奈の誕生日を打ち込んでみた。
ロックが解除された。
アルバムを開いた瞬間、背筋が凍りついた。
目に飛び込んできたのは、翔と莉奈の生々しい写真の数々。
海辺でのキス、レストランでの抱擁、それどころか……
私たちのベッドでの自撮りまである。
莉奈は私のシルクのネグリジェを身にまとい、挑発するように微笑んでいる。
日付を見ると、私がつわりで入院していた時期だった。
私は画面録画をしながら、写真をスクロールし続けた。
心が千切れそうだ。
夫として私のそばにいるべきだった時間は、すべて莉奈に費やされていたのだ。
涙が溢れ出し、視界が滲む。
「何してんだ!」
背後で怒号が響いた。
ビクッとして、手からスマホが滑り落ちた。
翔が大股で駆け寄り、床のスマホを拾い上げる。
私は素早く自分のスマホを隠した。
顔を上げると、殺気立つほどの怒りに燃える彼の目とぶつかった。
彼は私の手首を掴み、骨が砕けそうなほど強く握りしめた。
「優、お前、恥知らずか?誰の許可で人のもん漁ってんだ?」
翔はスマホを壁に叩きつけた。
「弱みでも握ったつもりか?ああ?」
彼は私に詰め寄り、鼻先に指を突きつけた。
「見たからなんだってんだ?俺はあいつと付き合ってる。それでお前に何ができるってんだ?
離婚か?やれるもんならやってみろ!
言っておくがな、離婚したらお前はただの捨てられた惨めな女だ!
お前の腹にいるやつも、長谷川家の財産を一銭たりとも貰えると思うなよ!」
私たちの子供を、「やつ」で呼ぶなんて……
七ヶ月もお腹の中で育ててきた我が子を、実の父親が「やつ」呼ばわりしたのだ。
もう限界だった。
私は衝動的に腕を振り上げ、彼の頬を思い切り引っぱたいた。
「あんた最低!」
その一発が、彼の怒りに火をつけた。
彼の目は充血し、狂った獣のようになった。
私の襟首を掴み、力任せに後ろへ突き飛ばした。
「殴りやがったな!?」
不意を突かれた私は、後ろへよろめき、腰を机の角に激しく打ち付けた。
激痛が走り、私はその場にうずくまった。
だが彼に容赦はなかった。屈み込んで、私の顎を強く掴む。
「優、警告しておく。俺の堪忍袋にも限度がある。
次やったら、お前もそのガキも、この世から消してやるからな」
その言葉は猛毒を塗ったナイフとなり、私の心臓の最も深い部分を突き刺した。
その時、下腹部に強烈な痛みが走り、股下から生温かいものが流れ出すのを感じた。
私は目を見開き、凍りついた。
「血……血が……」
翔が見下ろすと、その端正な顔にようやく一瞬の動揺が走った。
だが彼はすぐに私を助け起こすことも、救急車を呼ぶこともしなかった。
ただ私を見つめ、冷たく吐き捨てた。
「その血で汚れた手で、俺に触るな!」