10年越しの恋は一番の親友に奪われた第1話
第1話は約2,070文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
会社内恋愛は禁止されているため、私たちは10年間、秘密の関係を続けていた。
この10年、彼・白川悠人(しらかわ ゆうと)の辛い時期も支えてきたし、両親の介護だってしてきた。あまつさえ、彼の子供を宿してさえいた。
交際10周年の記念日の当日、ちょうど会社の創立記念パーティーが開かれた。
いつも無口な彼が、急に「愛する人にプロポーズしたい」と言い出した。
その瞬間、周囲の人たちは何かを察したように、私・秋月小夜(あきづき さよ)の方を驚きと憧れの眼差しで見つめた。
しかし、期待に胸を膨らませ、瞳を潤ませたその直後だった。
彼は指輪を手に取ると、そのまま親友の二宮寧々(にのみや ねね)の前で膝をついた。
* * *
会社内恋愛は禁止されているため、私たちは10年間、秘密の関係を続けていた。
この10年、彼・白川悠人(しらかわ ゆうと)の辛い時期も支えてきたし、両親の介護だってしてきた。あまつさえ、彼の子供を宿してさえいた。
交際10周年の記念日の当日、ちょうど会社の創立記念パーティーが開かれた。
いつも無口な彼が、急に「愛する人にプロポーズしたい」と言い出した。
その瞬間、周囲の人たちは何かを察したように、私・秋月小夜(あきづき さよ)の方を驚きと憧れの眼差しで見つめた。
しかし、期待に胸を膨らませ、瞳を潤ませたその直後だった。
彼は指輪を手に取ると、そのまま親友の二宮寧々(にのみや ねね)の前で膝をついた。
みんなの視線が一斉に、私に集まった。
さっきまでの幸福感は一瞬にして消え、心臓の奥まで凍りつくような冷たさが広がった。
同僚たちの驚いたようなささやき声が聞こえる。
「あれ?白川部長の秘密の恋人って秋月部長じゃなかった?」
「そうだよ……私もてっきり秋月部長だと思ってたけど、どうして二宮さんなの?」
「信じられない。何年も噂を信じてたのに!」
「気まずいな……」
気まずい?
私はかすかに震える指先を袖の中に隠した。
気まずいのは同僚たちではなく、この私だ。
同僚たちが長年噂していた通り、悠人と10年付き合ってきた恋人は確かに私だ。
私たちは大学時代からの付き合いで、悠人は当時から学内で有名な男の子で、私は金融学部の華だとよく言われていた。
学生たちのあいだでは、公認の美男美女カップルとして知られていた。
夏の夜、寮の近くの庭で、花の香りが漂う中、悠人は私の顔を包み込んでキスをしてくれた。若かったあの頃の思い出だ。
あれが私のファーストキスであり、初恋だった。
卒業後、私たちは同じ会社に応募して入社した。
今日で、丸10年になる。
つまり、今日は彼と交際を始めてからちょうど10周年の記念日だ。
職場恋愛禁止のルールを守るため、私は喜んで陰に隠れ、ずっとひっそりと付き合ってきた。
公にできず、人前で手をつなぐことも叶わなかったが、10年間ずっと不満一つなかった。
10年間の苦しい時期も、私はいつも彼のそばに寄り添った。
彼の父親が病に倒れたときは、何日もまともに寝ずに看病した。
そればかりか2週間前、突然体調を崩して産婦人科を受診したところ、妊娠が分かった。
私のお腹の中には、彼との間に命が宿っている。
神様も捨てたものじゃない。先週、新任の社長の冴木怜(さえき れい)からオフィスラブを解禁するというお達しがあったばかりなのだ。
だから悠人が指輪を取り出したとき、私は飛び上がりそうなほど胸が高鳴った。
10年という長い交際の末にようやくゴールインし、私の真実の愛が報われたと思った。ずっと空っぽだった薬指に、ようやく指輪がはめられる日が来るのだと信じていた。
それなのに、私の瞳が涙に濡れ、お受けしますという言葉が口から出そうになったそのとき。
悠人はあろうことか私の前を通り過ぎ、一番の親友である寧々の前に跪いた。
私が10年間寄り添い、ずっと大切に想い続けてきた男は、今、寧々を見つめて熱っぽく告白している。
「寧々。長年、俺のそばでつらい時期を支えてくれて、たくさん苦労もかけたな。
君を誰にも言えない秘密の恋人にしておくのが、本当に苦しくてたまらなかった。
やっと勇気を出せたんだ。君に聞いてほしいことがある。
寧々。俺と結婚してくれないか?これからどんなときも、一生俺が支えていくから」
どこかで聞いた言葉だ……
昔、彼は私を強く抱きしめ、こう言ってくれた。
「小夜。たくさん我慢させたよな。この10年の頑張りは全部分かってるから……
今の俺があるのは、君のおかげだ。
だから、俺にその力がついたら、真っ先に世界中へ君との関係を公表する。どんなことをしてでも、君をずっと俺のそばにいさせる。絶対に離さない。
君だけが俺の妻だ。ずっと一緒にいよう」
それなのに今、彼を10年間支え続けた相手は、私ではなく、ただ傍らで見つめていた親友に変わっているとは。
私が尽くしてきた姿を誰よりも間近で見ていた親友の寧々は、今は目元を真っ赤にして感涙している。
彼女が差し出した指に、悠人がエンゲージリングをはめていく。
二人は抱き合い、祝福の声に包まれている。
まるではじめから秋月小夜という人間が存在しなかったかのように。