五年愛した彼を捨て、私は私を取り戻す第3話
第3話は約1,688文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のうち最後の章です。第4話は公式アプリで続きます。
【ああ、さっき出ていった】
【美月はどうするんだ?今日が終われば、二人は交際6年目だろ。来週、光一が美月を家族に紹介するって聞いたぞ】
胸がきゅっと締め付けられた。
数日前、確かに光一からそう言われていた。
次の連休が明けたら実家へ連れていき、婚約の話をするつもりだ、と。
だから私は、今夜のゲームが光一のくれた機会なのだと、あれほど信じ切っていた。
けれど現実は、すべて私の思い込みだったと突きつけてきた。
自嘲するように口元をゆがめた時、玲奈がSNSを更新した。
【真夜中から山まで付き合ってくれた誰かさんに感謝。「私にはある」ゲームの勝ち星が、また一つ増えた】
私に見せつけるための投稿だと、すぐに分かった。
光一と正式に付き合い始めてからの5年間、同じようなことは数え切れないほどあった。
ただ一つ違うのは、以前の私なら、そのたびにひどく傷ついていたことだ。
今夜は「いいね」を押す気にもならなかった。
光一。玲奈と日の出を見て帰ってきたら、別れよう。
……
翌朝、目を覚ましたのは10時だった。
起きた時には、光一はもう帰っていた。
テーブルには温かい朝食が置かれ、彼はソファに座って、SNSに載せる写真を真剣に選んでいた。
私が部屋から出ても、顔を上げようとしなかった。
「テーブルに朝飯がある」
ちらりと見ると、玲奈の好物である魚介の雑炊だった。
私は魚介アレルギーだ。
自嘲気味に笑い、そのまま洗面所へ向かった。
私が雑炊に手をつけないのを見て、ようやく光一が顔を上げた。
眉間にしわを寄せると、次の瞬間には後ろから私を抱きしめてきた。
「まだ拗ねてるのか?」
光一はいつもこうだった。
私が本当に諦めようとするたび、彼はほんの一瞬だけ、愛されているのかもしれないと思わせた。
そして私は、彼が歩み寄るそぶりを見せるたび、何も考えずその手を取ってきた。
けれど今回は、もう疲れていた。
彼の腕を振りほどき、顔を洗った。
一言も口を利かなかった。
光一の顔が険しくなった。
「美月、いい加減にしろよ。昨日はお前だって、負けたら約束に従うって言っただろ。玲奈が勝ったから日の出を見に行った。それでも、帰りに朝飯を買ってきたじゃないか。ほかに何が不満なんだ?」
洗顔タオルを持つ手が止まった。
「昨日は、私たちの記念日だった」
静かに言うと、光一の顔色がわずかに変わった。彼は目を伏せた。
「一度くらい、いいだろ。来年だってあるんだから」
私は笑った。口の中に、じわりと苦みが広がった。
「玲奈と初雪を見たの?」
「大学1年の時だ。お前とはまだ知り合ってなかった」
「手編みのマフラーもあげた?」
「あの頃は流行ってたし、あいつがどうしても欲しいって騒いだから……」
「手首のタトゥーは玲奈のイニシャルで、助手席はいつも玲奈の身長に合わせてある。それに、玲奈ともウェディングドレスを見に行ったのね」
最後まで口にした私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
光一は完全に黙り込んだ。
しばらくして、ようやく絞り出したのは一言だけだった。
「そんなに大事なことか?」
胸の奥が大きく揺れ、私は振り返って彼の目を見つめた。
視界がにじんだところで、私はかすかに笑った。
「大事じゃない」
別れてしまえば、もう何一つ大事ではなくなる。
その日一日、私は光一と言い争わなかった。
言いたいことがなかったわけではない。ただ、もう争う意味がなかった。
それでも、伝えておかなければならないことがあった。
光一一人にではない。みんなに知ってほしかった。
私は負けを認められないのではない。
ようやく、このゲームから降りることにしたのだと。
その夜、私は昨夜と同じメンバーを呼び集め、もう一度「私にはある」ゲームを始めた。
もちろん、玲奈も光一もいた。
私がみんなを呼び集めたと知ると、玲奈が鼻で笑った。
「美月さん、昨日だけじゃ負け足りなかったの?今日は何を用意してきたのかな。もしまた負けたら、来週、光一が家族に会いに行く時、代わりに私を連れていってもらう。それで勝負できる?」
挑発する玲奈を前に、皆は顔を見合わせるばかりで、誰も口を挟まなかった。
光一は眉をひそめ、考えるより先に拒んだ。
「だめだ」