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狂った天秤から降りた花嫁第2話

第2話は約1,747文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。

一人で会社へ向かい、研修に必要な手続きを済ませてから家へ戻る。3時間が過ぎても、彼らは私の不在にすら気づいていないようだ。

夜10時を回った頃、京助が紙袋を提げてドアを開ける。

「何も言わずに出ていって、どこへ行ってたんだ?」

首を横に振る。「別に」

京助はそれ以上聞かず、持っていた紙袋を私に差し出す。「ほらよ」

紙袋に印字されたロゴは、私のお気に入りのスイーツの店のものだ。

付き合い始めた頃、京助は私を怒らせるたびに、わざわざこの店まで足を運んでケーキを買ってきてくれた。大行列ができる人気店で、毎回2時間以上並ぶのに、彼は文句一つ言わなかった。

あの頃のことを思い出すと、ふっと心が温かくなる。紙袋の中身を見る。けれど、次の瞬間、言葉を失ってしまう。

「これ……何?」

中に入っていたのは、ケーキではない。クリームがついた、何着かの汚れた衣服だ。呆然とする私を前にして、京助は少し気まずそうに視線を逸らす。

「葵衣がケーキを食べた時、うっかり服に付けちゃってさ。お前、洗濯上手いから、ついでに洗っといてやってくれよ。

それに、これってこの前の多数決の結果だろ……そんな顔するなよ」

この前の食事のとき、彼らは悪ふざけで【誰が一番、家政婦に向いているか】という多数決を始めた。そして、三人は揃って私を指名した。

そのとき京助は私の頭を撫でながら言った。「俺の嫁は本当に家庭的だよな。洗濯も料理も何でもできるし」

兄も笑って続けた。「そうだな。花凛は昔から家事が得意だったしな。これからは俺たちの服もまとめて洗ってくれよ」

ただの冗談だと思っていた。まさか、本当に私を家政婦扱いするつもりだったなんて。

私が洗うのが当然だとでも言うように、京助は私の頬を軽くつねる。

「お前がそんな心の狭いヤツじゃないって分かってるよ。葵衣は潔癖症だから、きれいに洗っといてくれよな。

それから、明日はウェディングドレスの試着だからな。早く寝ろよ」

汚れた服を紙袋に押し戻し、そのままゴミ箱へと放り捨てる。汚れてしまったものなら、もういらない。

翌日。仕事のせいで少し遅れて店に入ると、葵衣が私の予約していたウェディングドレスを着ている。店員も、京助も、兄も、その姿に目を奪われている。

けれど、葵衣は鏡の前で何度も自分の姿を見ながら、首を傾げて不満を漏らす。

「このデザイン、好きじゃないな。結婚式のテーマにも合ってないし、やっぱり別のドレスに変えようよ」

入り口の物音に気づくと、葵衣はドレスの裾を引きずりながらこちらへ歩み寄ってくる。

「お姉ちゃん、多数決で決めない?あたし、あっちのドレスのほうが好きなんだけど」

京助も相づちを打つ。「確かに、あっちのほうが似合いそうだな」

葵衣が指差したのは、私が以前、真っ先に候補から外したマーメイドラインのドレスだ。

私の結婚式なのに、ウェディングドレスまで勝手に着られ、デザインまで勝手に変えられる。ずっと溜め込んでいたものが、思わず口を突いて出る。

「ウェディングドレスまで、自分で決められないの?」

そこでようやく、店員は私が花嫁であることに気づく。気まずそうに視線を泳がせる。葵衣が居心地悪そうに立ち尽くしているのを見て、京助が慌てて取りなす。

「そんなにムキになるなよ。多数決で決めるって言ってるだけで、お前の意見をまったく無視するってわけじゃないんだから」

兄も苛立たしげに口を挟む。

「昔からずっとそうだっただろ。葵衣が着たいだけ着たら、あとでお前に譲るんだ。ウェディングドレスだからって、何が違うんだよ?

明日はもう式のリハーサルなんだ。こんなことで揉めてる暇はない」

私の顔色を見た葵衣は、ドレスを乱暴に脱ぎ捨てると、顔を覆って店を飛び出していく。二人の男は、迷うことなくその後を追っていく。

取り残された私は、ずっと夢見ていたウェディングドレスを見つめる。床に落ちたドレスは、何度も踏みつけられた。

胸が締め付けられる。店員でさえ、私に同情するような目を向けている。

「お客様、このドレス……どうなさいますか?」

口元をわずかに引きつらせ、キャンセル料とドレスを汚したことへの賠償金を支払う。そして、結婚式場の担当者へ電話をかける。

「結婚式は、キャンセルでお願いします。キャンセルにかかる費用は、こちらが払います」

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この目録には次の本の第1章から第3章までが収録されています: 狂った天秤から降りた花嫁。本の残りは公式アプリでお読みいただけます。

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