私とあなたの距離は遥か彼方第2話
第2話は約1,510文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
先生に事情を聞いたあとの説明で、私の心は完全に凍りついた。
「一時間前に、一花ちゃんのお父さんがアシスタントを迎えに寄こして、急用だからと彼女を連れて行きましたよ。ご存じなかったんですか?」
「ええ、知ってます。カバンは先生に預かってください。用事があるので、これで失礼します」
曖昧に応じて電話を切ったあと、家族グループに共有されている「完璧なスケジュール」を見て、私は吐き気がする。
いつからこのスケジュールは、私を騙すための完璧な道具になったのか。
深呼吸して心を落ち着け、私は一花のスマートウォッチの位置情報を開いた。
そして表示された場所へ車を走らせる。
そこはある遊園地だ。
一花を見つけた瞬間、私はその場で立ち尽くす。
昌也はシンプルなTシャツとジーンズ姿で、莉緒を抱き寄せ、甘い雰囲気を漂わせている。
一花はメリーゴーラウンドに乗り、二人に向かって笑顔でポーズを取る。
莉緒は一花に写真を撮りながら、昌也の頬に軽くキスをする。
どう見ても、仲睦まじい家族三人にしか映らない。
足が地面に縫い付けられたように動かず、私はまるで泥棒のように、彼らの幸福を覗き見している。
この遊園地が有名で、私は何度も「一花を連れてそこに行こう」と提案したことがある。
だけど一花は真顔で言った。
「ママ、大人なのにそんな子どもっぽいこと言わないで。そんなところ行ったら、時間の無駄でしょ?」
昌也も仕事で忙しいので、私はその提案を引っ込めた。
今から見れば、彼らは行きたくなかったんじゃなく、私と行きたくなかっただけなんだ。
あれほど食べ物に文句ばかり言っていた昌也と一花が、莉緒と一緒にファストフードを頬張り、楽しそうに笑っている。
それを見ると、誕生日の日に私が一生懸命作った料理に、彼らが一度も笑ってくれなかったことを思い出す。
その時、スマホが震える。匿名の番号から、彼らの仲睦まじい写真が送られてきた。
添えられた言葉は、【本物の妻なら、夫と娘に興ざめを感じさせることはない】。
私は写真を保存して、踵を返した。
須藤家の当主として、私はいつまでも頭を下げ続けるはずがない。
一花が帰宅する時、私は荷物をまとめている。
服や腕時計などの片付けは執事に任せられる。けれど大事な証明書や資料は自分で確認するしかない。
そんな私の姿を見た一花は、まるで最初から知っていたかのように、冷たい顔で叱りつける。
「ママ、たったこんなことで離婚するなんて、私がクラスでどう思われるか考えたことある?少しは大人になってよ!」
「言っとくけど、もし離婚するなら私は絶対パパと残るからね!あんたみたいな自分勝手な人、母親の資格なんてない!」
最後に、彼女は声が大きくなった。
彼女の目には引き止める色も未練もなく、ただ嫌悪しかなかった。
六年間大切に育ててきた娘を見て、私はいつものように優しく説明しようとは思わない。
代わりに、冷たく告げる。
「ちょうどいいわ。私ももう、あなたなんていらない」
言葉を聞いた一花の表情は固まり、目の縁が赤く染まる。
けれど彼女は必死に顔を背けて、私が慰めるのを待っている。
だが、私は荷物を黙々と片づけるだけで、取り合わなかった。
数秒待っても私が何も言わないのを見て、一花は鼻であしらい、背を向けて出て行った。
本当は、もともとこんな子じゃなかった。一花は賢くて明るくて、私にとって一番の味方だった。
だけど彼女にとって、昌也は最も尊敬すべき存在だった。
だから彼女は昌也の真似をして、何度も何度も私の限界を試し、最後には私を完全に見下すようになった。
大丈夫。
どうせ私は、もう彼女への愛を引き戻しつつあるのだから。
荷物の一部を片づけ終えた頃、執事が困った顔でドアをノックする。