籠の鳥は飛び立つ、私は自由な夢路をゆく第1話
第1話は約2,418文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
誕生のお祝いの日、私は幼き世子・陸今安(りく きんあん)が届けさせた煎じ薬を飲み干した。
股の間から血がどっと溢れ出し、腹の子は、瞬く間に汚らわしい血塊と化した。
陸今安は、もがき苦しみ助けを呼ぶ私を冷ややかな目で見下ろしており、その顔には悪意が満ちていた。
「母上に似た顔といって、母上に取って代われるとでも思ったか?
この浅ましい毒婦め!その顔を剥ぎ取り、八つ裂きにしてやりたいくらいだ!」
生温かい血が体外へ流れ出ると同時に、私の心に残っていた最後の情けも流れ去った。
私は手塩にかけて育てた幼き世子を見つめる。
心には怨みもなければ、悲嘆もなかった。
「ご安心を、これから消えます。もう目障りにはなりません」
* * *
誕生のお祝いの日、私は幼き世子・陸今安(りく きんあん)が届けさせた煎じ薬を飲み干した。
股の間から血がどっと溢れ出し、腹の子は、瞬く間に汚らわしい血塊と化した。
陸今安は、もがき苦しみ助けを呼ぶ私を冷ややかな目で見下ろしており、その顔には悪意が満ちていた。
「母上に似た顔といって、母上に取って代われるとでも思ったか?
この浅ましい毒婦め!その顔を剥ぎ取り、八つ裂きにしてやりたいくらいだ!」
生温かい血が体外へ流れ出ると同時に、私の心に残っていた最後の情けも流れ去った。
私は手塩にかけて育てた幼き世子を見つめる。
心には怨みもなければ、悲嘆もなかった。
「ご安心を、これから消えます。もう目障りにはなりません」
「その言葉、二言はないな!」
陸今安は嘲りを浮かべ、私の言葉を信じておらぬ様子であった。
侍女の手を借り、ようやく身を起こすと、私は激痛に耐えながら重い足を引きずった。
「父上に言いつけようなどと、ゆめゆめ思うなよ。
たとえ知られたところで、父上が俺をお咎めになるはずがない」
背を向けた瞬間、彼は鼻で笑った。
「たかが形も成さぬ胎児ごときが、父上の御心にある俺の地位に及ぶとでも?」
痛みで血の気を失いながらも、私は強いて笑みを作った。
「分かっております、あなたは厲王(れいおう)家唯一の世子、やがては天下の皇太子となられる御身。
厲王殿下が心から重んじるのは、あなたという跡継ぎだけでございますもの」
私がこれほど素直に認めるとは思わなかったのだろう。
彼は顔立ちがまだ幼いのに、凶暴な眼差しで私を睨みつけ、その瞳は疑いと憎しみで満ちている。
私はいつものように膝を折って彼をあやし、機嫌を取ることなどせず、一歩一歩、自分の屋敷へと歩き出した。
部屋の扉を開けた途端、力が抜けてその場に崩れ落ちた。
侍女たちは慌てふためき、侍医を呼びに飛び出していった。
朦朧とする意識の中、寝台に寄りかかり、敷物が血に染まりゆく様を見つめた。
視界は赤一色であった。
あの時、私はこのように真っ赤な晴れ着を抱きしめ、許婚のもとへ嫁ぐ日に憧れを募らせていた。
だが輿入れの直前、私は厲王家に連れ込まれ、おくるみに包まれた赤子を手渡されたのだ。
「一族の中で、亡き王妃に瓜二つなのはそなただけだ。
厲王殿下に仕え、世子のお世話をするのだ。
そなたの光栄だと思え」
まさか一族から追放されかけていた分家の私が、周(しゅう)家の嫡女と似ているとは、誰も思わなかっただろう。
彼らは私の縁談を破棄し、私を鳥籠のような屋敷に押し込め、これが私の光栄だと?
あっという間に十年も過ぎたが、私があの光栄を望んでいるかどうか、誰も聞いてはくれなかった。
十年か……
部屋の中は騒然とし、侍医が行き来する足音が響く。
誰かが泣き、誰かが去っていく。
全てが静寂に包まれた時、私は重い瞼を開け、枕元に立つ厲王・陸景行(りく けいこう)の姿を目に入れた。
血は争えぬというべきか、厲王と世子はよく似ている。
特に黙っている時は瓜二つだ。
その目元、その冷淡で他人行儀な様子……二人の面影は、恐ろしいほど重なって見えた。
「話は聞いた。腹の子は……残念だった。
今安に悪気はない。あいつも母を想うがゆえのこと、決してそなたの子を恨むでないぞ」
私が黙り込んでいると、彼はため息をついた。
「恐らく膳房の者が粗相でもしたのだろう。追って調べさせ、処分を下してやる」
処分だと?どうせ誰かを身代わりにして罪を被せるだけに過ぎぬ。
「今安はまだ幼い。そなたもそう根に持つな」
侍女が私を支え起こし、血の匂いが漂う寝具を替えている間、彼は思わず眉をひそめた。
この父子は雲上の人、俗世の汚らわしさなど無縁なのだ。
この数年、私が彼らの衣食住を取り仕切り、何一つ不自由なく世話をしてきた。
彼らがこのような穢れた光景を目にしたことなどあるはずもない。
何と滑稽なことか。私が腹の子を失ったばかりだというのに、彼は微塵も悲しんでおらず、ただ血の匂いを嫌がっているだけなのだ。
私の顔があまりに憔悴していたのか、陸景行は少し躊躇した後、私を抱き寄せた。
「そう悲しむな。無念なのは分かるが、子ならまたできる」
彼は私の唇の端に軽く口づけし、ゆったりとした口調で言った。
「この数年、そなたが良く仕えてくれたこと、余は見ておったぞ。
養生して体を治せ。そうすれば、必ずやまた子を授けて遣わそう」
夜は更け、月明かりは淡い。部屋にはまだ濃厚な血の気が漂っている。
授けて遣わそうって……なんと上から目線の言葉だろうか。
当初、厲王家に入った時も、彼は同じようなことを言っておった。
「余が生涯愛するのは亡き妻ただ一人。
世子が成人するまでは、他の女に余の子を産ませることなど、断じて許さぬ。
余と世子に尽くせ。時が来れば、そなたに子を授けて遣わそう」
その時を待ち続け、十年が経った。
その目に浮かぶ自得の笑みを見て、私は背筋が寒くなるのを感じた。
分かっている。
彼は私がひざまずいて恩に感謝し、涙を流して喜ぶのを待っているのだ。
しかし私は、痛む体で強いて立ち上がり、頭を下げた。
「殿下は間もなく帝位に就き、世子も皇太子となられます。
当初の約束は果たされました。私も、お暇を頂く潮時でございましょう」