選ばれなかった指輪第1話
第1話は約1,934文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。
私は同じ男と、七度結婚した。
そして彼も同じ女のために、七度、私と離婚した。
彼が「自由の身」となって初恋と休暇を過ごすため、彼女が噂にさらされないように守るため。
初めて離婚した時、私は手首を切って彼を引き留めようとした。
救急車のサイレンが鳴り響く。
だが彼は一度も病院に来てくれることはなかった。
二度目は、私は自分の価値を犠牲にして彼の秘書になった。
ただ、もう一度だけ彼の横顔が見たかったから。
私のヒステリーも、譲歩も、妥協も――彼にとっては、いつもの「一時的な別れ」の儀式でしかなかった。
彼は予定通りに私の元へ戻り、予定通りにまた去っていった。
だから六度目には、もう泣き叫ぶこともなく、黙って荷物をまとめた。
二人で過ごした部屋から、静かに出て行った。
そして今回は七回目。彼の初恋がまた帰国すると聞いて、自ら離婚届を彼の前に差し出した。
彼はいつものように、「一ヶ月後にまた籍を入れ直そう」と微笑んだ。
けれど、彼は知らなかった。
――今度こそ、私が本当に去るのだということを。
* * *
私は同じ男と、七度結婚した。
そして彼も同じ女のために、七度、私と離婚した。
彼が「自由の身」となって初恋と休暇を過ごすため、彼女が噂にさらされないように守るため。
初めて離婚した時、私は手首を切って彼を引き留めようとした。
救急車のサイレンが鳴り響く。
だが彼は一度も病院に来てくれることはなかった。
二度目は、私は自分の価値を犠牲にして彼の秘書になった。
ただ、もう一度だけ彼の横顔が見たかったから。
私のヒステリーも、譲歩も、妥協も――彼にとっては、いつもの「一時的な別れ」の儀式でしかなかった。
彼は予定通りに私の元へ戻り、予定通りにまた去っていった。
だから六度目には、もう泣き叫ぶこともなく、黙って荷物をまとめた。
二人で過ごした部屋から、静かに出て行った。
そして今回は七回目。
今度こそ、私が本当に去るのだ。
「白石雪歌(しらいし せつか)が帰国した。私たち……離婚しましょう」
そう告げて、私――夏目千昭(なつめ ちあき)はサイン済みの離婚届を夫・入江羽空(いりえ はく)の前に静かに置いた。
彼の表情が一瞬で凍りついたが、すぐに我に返り、慣れた手つきで署名をした。
私から離婚届を差し出すのは、これが初めてだった。
それでも彼は、これまで六回と同じように、聞き慣れた口調で私に約束した。
「一ヶ月もすれば、雪歌も帰る。そうしたら……また籍を入れ直そう」
昔の私なら、そんな言葉では満たされなかった。
誓約書を書かせたり、無理に約束させたりしたかもしれない。
でも今回は、心がまったく動かなかった。返事する気すら起きなかった。
「千昭……聞いてるのか?」
羽空は眉をひそめ、私の沈黙に苛立っている。
私はただ、軽くうなずいた。
「うん」
そう答えると、私は淡々と服を畳み、スーツケースに詰め続けた。
羽空が「また籍を入れ直そう」と言えば、必ず約束は果たす。
彼は業界でも誠実で知られている。そこは疑いようがなかった。
たまたま私たちの関係は、最初から夫婦というより、契約更新を繰り返す、ビジネスパートナーに近かったから。
決められた期日が来たら、形式的に「婚姻届」と「離婚届」という「契約書」にサインするだけ。
一年に二回。
これまで、私は十四枚の「契約書」に名前を書いてきた。
結婚式の日、彼は言った。
「結婚している間は、絶対に不倫はしない」
確かに彼は約束を守った。
……離婚した後に、誰と付き合おうと、それは彼の自由だった。
ただその代償に、私はみんなに知れ渡ってしまった。
――羽空の気持ち一つで呼び出され、用済みになれば捨てられる女として。
でも、今日の私があまりにも冷静だったせいか、羽空は落ち着かない様子だった。
今までの離婚の際、私は泣き叫び、喚き、時にはリストカットまでして彼を追い詰めた。
……あの記憶が、彼の頭から消えることはないのだろう。
だからこそ、今回の私のてきぱきとした態度が、彼の神経を逆なでしているようだった。
「じゃあ、今回は俺が家から出て行こうか……」
「パシン!」と大きな音を立ててスーツケースを閉めた。
その音が、彼の言葉を遮った。
「親友の家に泊まる約束、もうしてあるから」
すると羽空は何かを思い出したように、先ほどよりも表情を曇らせた。
「まさか……また駆け引きのつもりで、秘書のふりをして会社に来るんじゃないだろうな?
お前、もっと自分の人生を持てないのか。男がいなきゃ、生きていけないのか?」
その言葉の真意、すぐに理解した。
彼はただ、私が会社に行って、雪歌と彼の「仲睦まじい時間」を邪魔するのを嫌がっているだけ。
雪歌が久しぶりに帰国した。
羽空はいつものように、彼女を秘書として自分のそばに置き、一日たりとも離したくないのだろう。