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選ばれなかった指輪第2話

第2話は約1,717文字で、このサイトに収録された3章の冒頭章のひとつです。

二度目の離婚後、私は羽空の秘書採用試験に受かった。

彼の好みに合わせたラテを手に、胸を高鳴らせて会長室のドアを開けた瞬間――

そこで見たのは、彼の膝の上で雪歌と絡み合う姿だった。

頭が真っ白になった。

気がつくと、私は雪歌に掴みかかっていた。

次の瞬間、羽空の一撃で地面に叩きつけられた。

「あっ……!」

私は床に倒れ込んだ。

ドアの外には、見物の社員たち。

まだ私を「会長の奥様」だと思っているから、雪歌を見る目は皆、軽蔑に歪んでいた。

彼女の評判を気にしたのだろう。

羽空は、泣いて否定する私を無視し、私のバッグを奪うと中身を床にぶちまけた。

役所からもらったの離婚届受理証明書が、地面に散らばった。

たった一枚の紙が、私と羽空の今の関係を、誰の目にも明らかにした。

あの日以来、羽空は私と離婚するたびに、SNSでそれを公表するようになった。

誰もが知っている――入江羽空が愛しているのは白石雪歌だけ。

私こそが、しがみついて離れない女だと。

……でも、今回は違う。

彼の心配は無用だった。

私は少しも躊躇せず、スーツケースの取っ手を握った。

「ご心配なく。もう……お二人の邪魔はしないから」

羽空は訝しげな表情で私を見つめていたが、私が一歩、ドアの外へ踏み出した瞬間、慌てたように声をあげた。

「来月の十三日……再婚の日だ。忘れるな」

私は思わずぼんやりとした。

――なんて偶然なんだろう。私の海外に行くフライトも、同じ来月の十三日に決まっていたのだ。

……

雪歌が帰国してから、羽空が私を気にかけることは一度もなかった。

私も、もはや彼を追いかけない。

離婚後に彼の行動を探り、現れそうな場所で待ち伏せする……あの狂気じみた日々は終わった。

親友の唐沢万純(からさわ ますみ)と、寿喜鍋を囲み、タピオカを啜り、焼鳥をつまみにハイボールを傾ける……

そんな、楽しい日々を送っていた。

気づけば、出国まであと二十日。

その日、万純と待ち合わせたレストランで。

料理を待っていると、偶然、羽空と雪歌が腕を組んで入ってきた。

羽空が雪歌の腰を抱き、二人は楽しげに笑い合う。

誰の目にも「お似合いのカップル」に見えるだろう。

「……千昭?」

彼の視線が、真っ先に私を捉えた。

雪歌は甘えるように羽空の首に腕を回し、微笑んだ。

「偶然ね、千昭さんもここで食事?」

私が雪歌を見た瞬間、羽空は無意識に一歩前に出て、彼女を守るように遮った。

……また、あの時のように掴みかかると考えたのだろう。

でも、私は何もしなかった。

むしろ、怒りで立ち上がろうとした万純を制して、穏やかに微笑んだ。

「ええ、本当に偶然ね」

私の譲歩を感じ取ると、雪歌はさらに余裕のある笑みを浮かべた。

「ごめんね千昭さん。羽空が今日、この店を貸し切って私と二人だけで食事するって言うの。悪いけど、別の場所にしてもらえない?」

彼女は羽空の腕を軽く揺すり、甘えた声で続けた。

「ねえ、羽空、そうでしょ?早く言ってよ。さもないと、千昭さんは私がわざと彼女を狙い撃ちにしてるって思うに決まってるから」

羽空は一瞬、私の冷めた視線と触れ合い、わずかに躊躇した。

……でも結局、私に向かって、小さくうなずくしかなかった。

――それは、何も言わないよりも、ずっと残酷だった。

万純が歯を食いしばってまた立ち上がろうとするのを、私はそっと手を伸ばして押さえた。

「大丈夫。別の場所に行きましょう」

――別の場所へ。羽空のいない場所へ。

もうすぐ、出国するんだ。

元夫とのつまない言い争いにかまっている時間はない。

元妻としての最後の務めは、彼を「この世に存在しない人」として扱うことだけだ。

その時、レストランのマネージャーは状況を察し、頃合いを見計らって羽空と雪歌に近づき、お世辞を言った。

「お二方、本当にお似合いでございます。見ているだけで羨ましくなります」

その言葉に、羽空の視線が再び私に向けられた。

私が何かを言うのではないかと警戒しているようにも、私が何を言おうとしているのか探ろうとしているようにも見えた。

……でも私は、まるで何も聞こえなかったかのように、万純の手を取って席を立った。

まさか何の反応もないとは思わなかったのだろう。羽空は、遠ざかる私の背中を、ただ呆然と見送るしかなかった。

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この目録には次の本の第1章から第3章までが収録されています: 選ばれなかった指輪。本の残りは公式アプリでお読みいただけます。

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